分析評価の最前線

電子線照射試料損傷の
高精度評価法の開発

分析ステーション
表面分析グループ
田沼 繁夫


 近年、半導体素子などの高集積化が進むにつれて、極微小領域の表面組成や構造をいかに把握するかが重要な課題となっています。これに伴い、オージェ電子分光装置(AES)や走査型電子顕微鏡(SEM)などでは電子線をnmオーダーに絞って試料観察や表面分析を行うために、試料表面に試料の分解、還元などの著しいダメージを与え、大きな問題になっています。今まではダメージの評価を定量的に評価する方法がなく、オージェスペクトルの形状変化や試料表面の変質(形状や色の変化)などで定性的に判断してきました。しかし、正確な材料評価を行うためには、この電子線照射により生じる試料表面の変質現象を定量的に評価することが不可欠です。
 そこで、AESを用いて二酸化ケイ素薄膜(SiO2/Si)表面に電子線照射により引き起こされる表面損傷を定量的に測定/評価する方法を開発しました。この方法は電子線により試料表面が分解して生成するごくわずかな金属成分を検出するものです。現在、この方法はVAMASプロジェクトに国際共同研究として提案され、開発した方法の有効性を確認するために三カ国の21研究機関に作成した試料を配布し、ラウンドロビン試験(分析対象試料および手順を統一して複数機関で試験を行うこと、国際標準化には不可欠な手法)を行っています。
さらに、この方法により測定した二酸化ケイ素薄膜の電子の臨界ドーズ量(試料分解を起こす最低の電子の量)と薄膜における電子の阻止能(固体中を電子が走行するときに失う単位長さあたりのエネルギー)との関係を調べました(図)。これから二酸化ケイ素試料表面の電子線照射損傷における臨界ドーズ量の逆数(すなわち試料表面のこわれやすさ)は、電子の加速電圧が3〜15keVの範囲では電子の阻止能に比例することがわかりました。また、この関係は二酸化ケイ素の膜厚によらないこともわかりました。従って、電子の阻止能は低エネルギー領域においては試料表面損傷の良い指標になることが判明しました。これにより、試料損傷を避けながら微小領域の観察・分析をSEMやAESなどを用いて行う際の条件設定が容易になり、材料評価が正確に行うことが出来るようになります。
 現在行っている国際ラウンドロビン試験により、正確さと実用性が実証されれば、電子線照射試料表面損傷評価法の国際標準となることが期待されます。

図 100,10nmの二酸化ケイ素(SiO2/Si)試料の電子線損傷における電子臨界ドーズ量と電子の阻止能の関係.


トップページへ