安価でアレルギー性の低い歯科部材の開発

生体材料研究センター
機能再建材料グループ

黒田 大介

塙 隆夫


 歯列矯正ワイヤーなどの歯科治療器具の素材として、Ti-Ni形状記憶合金や316Lオーステナイト型ステンレス鋼が使用されています。しかし、これらの合金には金属アレルギーの原因物質として問題視されているニッケルが含まれています。一方、ニッケルのかわりに窒素で力学的強度と耐食性を向上させたアレルギー性の低いニッケルフリーステンレス鋼が、新しい生体用金属材料として注目されています。しかし、成形や機械加工の条件によっては素材自体が非常に硬くなるため、ニッケルフリーステンレス鋼製の歯科部材・器具やニッケルフリーステンレス鋼から小型で複雑な形状の歯科部材・器具を製造する技術は実用化されていません。また、ニッケルフリーステンレス鋼の溶解には特殊溶解設備が必要となるため、素材価格も既存のオーステナイト型ステンレス鋼と比較して高価です。これらのことから、ニッケルフリーステンレス鋼を素材とする歯科部材・器具を簡便に安価で製造できる新しい製造技術の開発が強く望まれていました。
 そこで、私達が考案した窒素吸収処理を利用したニッケルフリーステンレス鋼の製造技術とデンツプライ三金株式会社の優れた歯科部材製造技術とを融合させ、ニッケルフリーステンレス鋼から小型で複雑な形状の歯科部材・器具を安価に製造する技術の共同開発を行っています。
  窒素吸収前の軟らかいフェライト型ステンレス鋼の状態では、直径1mm以下、長さ4000mm以上の線材を室温中で容易に成形できること、合金成分の調整により複雑形状の歯科用部品も容易に製造できることが明らかになっています(図1及び表紙写真下参照)。また、これらの成形品を1200 ℃に加熱した熱処理炉内で窒素ガスと2時間接触させることで1重量%の窒素が成形品に吸収され、成形品全体の組織がオーステナイト相へ変態し、目的のニッケルフリーステンレス鋼製品が得られます。製造した歯科部材の引張強度、破断伸び、ねじり強度、耐食性は既存のステンレス鋼と比較して高い値を示しており、製品のさらなる小型化も期待できます(図2参照)。
 今後の課題は、製品形状に応じた窒素吸収処理条件の最適化と力学的耐久性の検証です。

図1 窒素吸収前に成形した小型部品.

図2 窒素吸収前後の直径1mmのワイヤーと既存の生体用金属材料のねじり応力と破断までのねじり角度の比較.

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