シリコン表面の損傷を室温で修復

− 低エネルギー電子線による新現象発見 −

ナノマテリアル研究所
ナノアーキテクチャーグループ

材料研究所
反応・励起のダイナミックスグループ

三木 一司

北島 正弘


 近年、シリコン集積素子や磁性記録媒体上には、面内で100nm、深さ方向では数nm程度のナノスケール機能性構造物が出現しています。このスケールでは極限的な手法により作製した人工構造物が欠陥除去のための高温処理により崩壊します。そのため、高温処理を回避した新たな欠陥回復プロセスが模索されています。私達は、低エネルギー電子線照射により、プラズマによるダメージ欠陥層を室温でも原子レベルで修復できる現象を発見しました。この修復作用が、熱を嫌う部分への結晶領域作成、構造修飾等のための低温プロセス技術開発の道標になると期待されます。
 私達は、低エネルギーの電子線照射を行うと、プラズマダメージにより蓄積された圧縮応力(歪)が、電子線照射開始とともに急激に緩和がはじまり、その値はもとの基準値に完全に戻る現象を見出しました(図(a))。これには、@高エネルギーの電子線は欠陥を誘起するのに対して、約70eVを境にこの電子線の効能が「破壊」から「修復」へと遷移すること、A非熱的過程であること、などの特徴があります。
 この現象はBourgoin-Corbett型イオン増速拡散モデルで説明できると推測されています。同モデルにおいては、電子線照射下で欠陥の荷電状態が遷移することに注目します。荷電状態遷移が電子線照射下で連続的に起こると、熱の助けなしに拡散することが可能になり再結晶化すると考えるものです。
 この研究成果は、英国物理学会誌に最近掲載され、注目すべき論文としてIoPSelect (http://Select.iop.org)に選ばれました。

図 プラズマと電子線の照射による表面の応力変動と走査トンネル顕微鏡(STM)像.65eVのアルゴンイオンと10eVの電子線をシリコンに相次いで照射し、表面応力の変動を光てこ法により計測した(a).イオン照射前のシリコン(100)表面(b)、欠陥が誘起された表面(c)、電子線照射で欠陥が消失した表面(d)のSTM像.

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