Si(100)表面における極低温基底状態の解明
− シリコン情報技術に不可欠な知的基盤を提供 −

ナノマテリアル研究所
ナノデバイスグループ

藤田 大介

鷺坂 恵介


 私達は、ナノテクノロジーの基盤技術として重要な極限物理場環境での走査トンネル顕微鏡(STM)技術の開発を推進しています。私達の高分解能・極低温STM技術を用いて、Si(100)表面の基底状態を1K以下の温度領域において原子レベルで解明することに成功しました(図1)。これにより、Si(100)表面上に存在する3種類の周期構造、すなわち(2×1)、c(4×2)、p(2×2)の各構造のうち、最安定構造がc(4×2)であることを決定できました(表紙写真上参照)。さらに、従来、基底状態として提案されてきた他の構造をSTM探針から与えるエネルギーを制御することにより自由に操作できることを世界で初めて実証しました(図2)。
 (100)表面を有するシリコンウェハーは、ITを支える最重要材料であり、多くの研究者が研究してきました。ところが、その表面の基底状態(極低温における最も安定な状態)はこれまで確定しておらず、物理学に残された未解決重要問題の一つでした。また、Si(100)表面上での各種プロセスに関しては産業的重要性が大きいことから様々な計算シミュレーション手法が開発されてきました。このような計算科学技法において表面の最安定構造を正確に再現できることが信頼性を検証する上で重要です。
 今回の成果は、Si(100)表面の基底状態解明にとって重要な基礎的知見を与えるものですが、シリコンプロセスシミュレーション技術にとって必要不可欠な知的基盤を提供する意味においても非常に重要な発見です。



図1 Si(100)表面の極低温STM像(0.7K).

 

図2 Si(100)表面の基底状態から準安定状態へのSTM構造制御(〜5K).

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