データ取得、データベース発信、国際標準化活動

疲労データシート

材料基盤情報ステーション
疲労研究グループ
山口 弘二


 疲労破壊とは、金属材料を一度だけ引っ張り曲げたりしても壊れないような力でも、それを繰り返し負荷すると最終的に破壊に至ってしまう現象です。人が働きすぎると疲れ、時には過労死という悲劇が起きるように、機械や構造物もその使用過程や稼働中に受ける繰り返し応力によって疲労し、ついには破壊することもあるのです。1985年8月に起きたジャンボジェット機の墜落事故は客室と外界とを遮断する圧力隔壁に発生・成長した疲労き裂を見逃したためと言われています。
 私達は、機械・構造物に用いられる代表的な国産実用金属材料について、基準的な常温疲労、溶接継手疲労、高温疲労特性のデータシートと、データ解析資料を、1978年以降これまでデータシート96冊及びデータシート資料16冊を発行してきました。材料や試験内容は、構造材料データシート懇談会や疲労検討会などから時代の要望・要請を受け入れて検討し、実施しています。
  最近は、機械・構造物の長期使用が通常化してきており、長期疲労データの取得が重要となっています。例えば、機械・構造用鋼の長期常温疲労では繰り返し数が1010回まで、溶接材料の継手材疲労では108回まで、高温材料のひずみ制御高温疲労では107回までの長期データを取得して、疲労データシートとしてこれまでに10冊を発行しました。
 図は、長期常温疲労で取得した高強度ばね鋼SUP7の疲労特性です。繰り返し数1010回まで疲労試験を行うには、大変時間がかかります。そこで、これまでの通常の試験機を、連続長時間運転を可能とした試験機に改良しました。それが100Hz回転曲げ疲労試験機で、この試験機を3年間連続運転して得た1010回までの試験結果が図の印です。長期疲労を短時間で得るために加速試験についても検討しました。その試験機として、試験片に負荷する応力周波数が20kHzの超音波疲労試験機、および600Hzの油圧サーボ疲労試験機をいち早く導入し、疲労試験に対する加速試験法を確立しました。その結果、図のような及び●印の結果が得られました。
 このような長期疲労では、繰返しの応力振幅(図の縦軸)は引張強度の半分以下となり、疲労破壊は表紙写真下のようにフィッシュ・アイと呼ばれる典型的な破壊形態を示します。このように非金属介在物を起点として、内部破壊するような試験条件下では、図のように周波数の影響(100Hzから20kHzまで)はほとんど現れなくなり、20kHzまでの加速試験の有効性を証明しています。ちなみに、100Hz疲労試験で3年かかる1010回までの試験が、20kHzでは1週間程度で終了します。

図 SUP7ばね鋼の長期常温疲労特性.


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