世界初の水晶による波長変換デバイス

− 微細ツイン制御による周期ツイン構造 −

物質研究所
光学単結晶グループ

栗村 直

北村 健二


 水晶は古くから宝石としても珍重され、時計や携帯電話などに利用されている代表的な単結晶材料です。水晶発振子などのデバイスを作製する際にはツイン(双晶)を除去して均一な単結晶を得ることが必須であり、これまでは除去技術が研究されてきました。今回この発想を全く逆転し、ツインを微細制御して、レーザーの波長変換デバイスを実現しました。このデバイスは紫外レーザーや高出力レーザーなどへの応用が期待されます。
 物質研究所光学単結晶グループでは、強誘電体単結晶を用いた分極反転構造による波長変換デバイスを研究してきました。強誘電体は電気的なプラス、マイナス(自発分極)をもつため、電界によってこれを反転させることができます。周期的に反転させることで波長変換デバイスとして高効率で動作します。しかし、従来の強誘電体では透明領域のため出射波長として300nmが限界とされており、深紫外光への分極反転波長変換デバイスは存在しませんでした。
 一方、水晶は熱的、化学的に安定で、紫外150nmまで透明な材料とされています。光学フィルターや波長板として広く利用されてきましたが、分極反転が不可能なためこれまで波長変換には用いられてきませんでした。強誘電体の分極反転構造と同様な構造を常誘電体である水晶に作製できれば、波長300nm以下の紫外領域にも対応できる波長変換デバイスとなります。
 今回私達は、水晶に人工的にツイン構造を作製することにより、分極反転構造を形成することに成功しました(表紙写真下)。強誘電体では電界を印加するのに対し、水晶では応力を印加させて反転構造を作製しています。表面に段差をつけた水晶に応力をかけるとツインは図1のようにニョキニョキと伸び周期構造になります。水晶ツインは地震の際の応力や温度の研究に、鉱物学的見地から調査が進められてきましたが、今回全く異なる視点から新たな「デバイス化技術」として利用しました。この技術で周期125μmの微細なツインの制御を行い、レーザーの波長変換デバイスを世界で初めて実現しました(図2)。これにより低エネルギーの赤外光を高エネルギーの緑色光に波長変換することに成功しました。
 今後はツインの制御精度を改善することでより微細な周期を実現し、紫外光への波長変換を目指します。


図1 周期ツイン形成の実時間観察像(周期125μm)。

 

図2 水晶波長変換デバイスによる赤外光から緑色光への波長変換。

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