放射光利用による物質材料研究

新しい蛍光X線技術を用いた材料開発

材料研究所
高輝度光解析グループ
江場 宏美


 文化財の調査や環境試料の分析、工業製品の管理など、蛍光X線分析は以前から便利に用いられてきました。私達は、蛍光X線分析をさらにインフォマティブで有力な材料分析法とするため、新しい原理に基づく蛍光X線イメージング技術を開発しました。これは、材料中にどのような元素がどのように分布しているかを、画像として表示する技術です。従来、同様のイメージングを行うには、放射光を使っても数時間〜丸一日かかっていましたが、この新技術によって、今や0.1秒〜数秒という超高速のイメージングが可能となりまた。
 私達はこの技術を使って、材料の分析だけでなく新材料の開発を進めていこうとしています。具体的には、近年発達してきたコンビナトリアル材料合成法と組み合わせることにしました。コンビナトリアル法では、複数の異なる材料を一枚の基板上に同時に作ることで、省力的・効率的に材料の開発ができます。この基板の蛍光X線イメージを観察しますと、複数の材料についての評価を同時に行うことができます。表紙写真右下は組成をパラメータとしたコンビナトリアル試料ですが、下方の材料ほどマンガン含量が高いことがわかります。数値的処理をすることで、それぞれの材料について同時に組成分析ができます。コンビナトリアル法ではこれまで、複数の材料の評価を迅速に行う決定的方法はありませんでしたので、これは大きな前進です。
 右の写真はリチウム鉄複酸化物のコンビナトリアル試料です。この複酸化物は二酸化炭素を化学的に吸収することができるため、吸収量や吸収速度をアップできれば、温室効果ガス削減の切り札となるかもしれません。この試料は1段目から4段目まで4通りの異なる条件で合成を行い、さらに各段の中で条件を変えて二酸化炭素を曝露しています。高エネルギー加速器研究機構放射光研究施設BL-16A1において、入射X線のエネルギーを少しずつ変えながらこの試料の蛍光X線イメージを繰り返し撮ることで、それぞれの材料のX線吸収スペクトル(蛍光XAFS)を調べました。図は上から2段目の材料の蛍光XAFSで、低温の曝露でも短時間で吸収端が高エネルギー側へシフトし、二酸化炭素の吸収性が優れていることがわかりました。以上のように、複数の材料を蛍光X線によって同時に評価し、特性の優れたものを選び出していくことで、高性能材料の開発を効率的に進めていくことができます。
(この研究の一部は資生堂サイエンス研究ファンドの助成により行われました。)

図 リチウム鉄複酸化物のコンビナトリアル試料と、四角で囲んだ試料についての蛍光XAFS(鉄K吸収端)を示す。吸収端の高エネルギー側へのシフトによりCO2の吸収が確認された。

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