放射光利用による物質材料研究

“埋もれた”薄膜界面の非破壊評価

材料研究所
高輝度光解析グループ
桜井 健次


 物質のX線に対する屈折率は1よりわずかに小さい値を持つため、平坦かつ平滑な物質表面に全反射臨界角よりも浅い角度で入射したX線は光学的な全反射を生じます。この現象下では、X線の物質に対する透過能を精密に制御して表面に敏感な解析を行うことができます。輝度が高くきわめて平行性に優れたX線を供給するシンクロトロン放射光は、その理想的な光源です。
 ところで、半導体や磁性体等、多くの機能材料で用いられる薄膜の表面は、大気や湿気による酸化や変質、物理的な接触による損傷や化学反応等を防ぐために、ほとんどの場合、保護層により覆われています。一般的には、こうした保護層をつけることは、必ず何らかの影響を下層に与えると考えられます。しかし、いったん保護層をつけた後に評価を行おうとしても、多くの表面分析法は、それが邪魔になるため、役に立たなくなってしまいます。こうした表面に露出していない、“埋もれた”薄膜界面の構造を非破壊的に解析する方法はないか。これは、最近の薄膜を扱うナノテクノロジー関連研究における大きな課題です。
 図は、わずかに作製条件が異なる2種類のGaAs量子ドットの試料を、表面に保護層をつけた状態でX線反射率法により非破壊的に評価した結果です。試料に入射するX線と表面とのなす角度を走査しながら測定したX線反射率のプロファイルには明らかな違いが認められます。試料Aには、量子ドットの層が存在することに対応する短周期の振動パターンが認められますが、試料Bでは緩やかな振動のみが観測され、保護層をつけたために量子ドットが壊れていることが明らかになりました。
 NIMSでは、このように“埋もれた”薄膜界面を非破壊的に評価できるツールであるX線反射率のデータをモデルフリーで精密解析する新理論の確立やリアルタイムの計測技術等の開発にも取り組んでいます。

図 X線反射率による2種類のGaAs量子ドット試料A、Bの反射率(左)及びフーリエ解析法(1990年に当機構において世界に先駆けて考案された解析法)による解析結果(右)。左下の表には、解析の結果得られた試料Aの量子ドットの構造パラメータを示す。(図左の実線はパラメータフィッティングによる結果を示す)

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