先端情報通信技術を支える物質材料研究

医療・環境計測用赤外波長変換素子の開発
−NIMS認定ベンチャー企業SWINGで製品化

物質研究所
光学単結晶グループ
北村 健二


 私達は、医療、環境計測、分光分析用光源として、より簡便に使える近赤外用波長変換素子を開発し、研究成果活用を目的としたNIMS認定ベンチャー会社「SWING」を通して製品化しました。
 レーザーは、半導体プロセスや光通信といった先端科学技術に欠かせない基本ツールとなっています。しかし、使いやすいレーザーとしていかなる波長も簡単に発振できるかというと、そこまでは発達していません。一方、いろいろな波長のレーザー光を使いたいという要望は、様々な応用分野で益々高まっています。そこで、使いやすい発達した特定波長レーザー光の波長を、希望する波長に変換する技術が重要となります。
 レーザー光の波長を変換する方法として、ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウム結晶を使う方法があります。これらの結晶は強誘電体と呼ばれ、特定の方向で原子配列に偏り(分極)を持っています。この分極は電界をかけて部分的に反転することができますが、周期的な分極反転構造を形成すると、効率よく入射レーザー光の波長を変換することができます。しかし、従来から市販されている結晶では、分極反転に必要な電界(抗電界)が非常に大きいため、反転が難しく、素子の厚さに限界(0.5〜1mm程度)がありました。
 私達は、結晶中の原子配列の乱れ(欠陥)を制御して単結晶を育成すると、抗電界が1桁も下がることを発見しました。この効果を利用して、タンタル酸リチウム結晶を用いた厚手(2〜3mm)の分極反転素子作製に成功しました(図参照)。
 素子が厚手になると、容易に素子の中にレーザー光を通すこともできますし、高出力発振(平均出力10W発振可能)にも耐えられることなど、様々な長所が現れます。そこで第1段階として、2ミリ角のロッド形状を標準とした素子を開発しました。
 発振する波長は分極反転周期と動作する温度に依存します。現在は20〜35ミクロン程度の反転周期をもつ素子が作製可能です。これらを利用すると、波長1.064ミクロンのレーザー光を、1.4〜4ミクロンの波長光に変換することができます。一つの反転周期をもつ素子では、温度により発振する波長の幅は限られていますが、異なる反転周期をもつロッド型素子を組み合わせることで、広い波長領域で任意の波長のレーザー光を得ることができます。今まで、簡便なレーザー光源のない波長領域ですから、医療、環境以外にも新しい応用展開が期待されます。

図 MgO添加定比タンタル酸リチウム結晶を用いたロッド型
(2x2x35mm)波長変換素子.サイズは、2x2x35Lmm.


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