発光材料研究の新展開

無給電で動作する光ヒューズ
−光ファイバ回線に挿入した炭素被覆低融点ガラス

物質研究所
機能性ガラスグループ
轟 眞市


 大出力レーザ光源の進歩に伴い、より強い光を取り扱うシステムが普及してきました。1本の光ファイバを使って波長の異なる200以上の光信号を同時に伝送する波長多重通信などがその例です。こういった状況は、システムを構成する光部品にとって、不用意に過剰な光に曝されて故障する危険が増すわけで、何らかの対策が求められています。
 世の中の大抵の電気製品にヒューズが搭載されているように、光システムに光ヒューズを取り付けることが、最も直接的な解決策です。しかし、ヒューズの動作に利用されるジュール熱(通過する電流量の2乗に比例)に相当する現象は、光伝送に使われる媒体には現実的に存在しません。そこで、入力光の強度を監視し、必要に応じて光回線を切断する装置が用いられていますが、この動作のためには別途電源が必要になります。
 私達のグループは、無給電で動作する光ヒューズに利用可能な現象が、低融点ガラスで融着した光ファイバ回線(一般的な構造例は表紙写真上参照)を炭素含有物で被覆した構造において観察されることを発見しました。図(1)にその外観を示します。黒く見えている炭素含有物の内側に、向かい合わせに配置された光通信用のシリカガラス製単一モード光ファイバ(直径0.125mm)とそれを繋いでいる低融点ガラスが存在します。光ファイバ内を進んできた光は、透明な低融点ガラスを経由して、そのほとんどがもう片方の光ファイバに到達しますが、残りのわずかな光が炭素含有物に到達するようになっています。
 この光ファイバ回線に波長1.54μmの連続光を通し、その強度を増加させていくと、1.3W付近で突然閃光が発生しました(図(2))。その直後の図(3)を見ると、低融点ガラスが変形し、2本の光ファイバ間の接続が切れているのがわかります。閃光が発生した原因は、炭素含有物に到達した過剰な光入力に反応して瞬間的に発生した高熱と考えられます。この熱で、低融点ガラスだけが選択的に変形し、光回線の切断に至ります。
 今後、材質や素子形状の検討を通じ、ヒューズ動作を支配する因子を明らかにする予定です。

図 過剰光の通過によって誘起された切断現象


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