発光材料研究の新展開

非線形格子緩和と発光過程
−高分子の格子緩和過程のダイナミックス

物質研究所
電子セラミックスグループ
和田 芳樹


 ポリアセチレンに代表される機能性高分子では、主鎖骨格上の一次元的なナノ空間に閉じこめられた電子系が、大きな非線形光学効果、励起子の安定化、光構造変化等の特有な光機能を引き起こしています。
 高分子では光照射により生成した励起状態が周囲の格子をひずませて、発光を起こす自己束縛励起子や主鎖の非線形な‘よじれ’である中性または荷電したソリトン、ポーラロン等の様々な格子緩和状態が生成します。これらの格子緩和状態の生成と競合は、光機能の発現と密接に関わっており、特に生成初期過程のダイナミックスを解明することは、光機能の発現機構を解明し、高機能化を図るうえで重要です。
 私達は、高分子の精密な光物性を明らかにするために、単結晶が得られ、電子相関や電子の遍歴性、電子と格子の相互作用等の物理量を広い範囲で変化させられる有機無機複合高分子(ハロゲン架橋混合原子価金属錯体)を対象として実験を行いました。具体的には、光照射後の吸収スペクトルの時間変化を分解能100フェムト秒(フェムト=10-15)で測定することにより、格子緩和の初期過程を観測しました。
 その結果、電子と正孔の束縛状態(励起子)が光生成した場合に、余剰なエネルギーを放出しながら準安定な自己束縛励起子状態に移行する過程が、吸収帯の移動として観測されました。一方、生成過程で競合する中性のソリトンの生成に、時間分解能以下の早い過程が存在することも明らかになりました(図1)。さらに、自由な電子正孔対が光生成した場合に、ポーラロンが振動を伴いながら安定化していく過程も明らかにしました(図2)。
 今後、物性を支配する物理量を広範な領域で変化させ格子緩和のダイナミックスの変化や集団現象、光誘起相転移などの現象を探索、解明していくことにより、高分子の高機能化や新しい用途の開拓を図っていきます。

図1 Pt-Cl錯体の自己束縛励起子と中性ソリトンの時間分解光誘起吸収スペクトル 図2 Pt-I錯体のポーラロンによる光誘起吸収強度の時間変化

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