ナノ析出物設計により
高強度耐熱鋼を開発

超鉄鋼研究センター
耐熱グループ
種池 正樹

超鉄鋼研究センター
耐熱グループ
阿部 冨士雄


 近年、世界的に地球温暖化防止に向けての二酸化炭素の排出抑制と資源節約の観点から、火力発電プラントの更なる発電効率の向上が強く求められています。発電効率向上には使用蒸気温度の高温・高圧化が必要であるため、そのような高温での使用に耐えうるフェライト系耐熱鋼の開発が課題となっています。
 1997年から開始された超鉄鋼プロジェクトでは精力的に研究を進めてきており、革新的な合金設計指針を数多く提案しています。このような耐熱鋼の実用化にあたっては、実機使用時間相当の10万時間(約11年5ヶ月)経過時において十分な高温強度を有することが必要とされます。今回の研究では、これまで得られた合金設計指針に基づき高温長時間に渡って強度を維持できるよう、さらに合金組織制御を行うことにより、650℃、10万時間相当まで優れた高温強度を持つ新規耐熱鋼の開発に成功しました。
 フェライト系耐熱鋼は鋼の組織中に微細な粒子を分散させることで強度を向上させています。従来の鋼では主に粒径が300nm程度の炭化物を分散させていましたが、今回開発した鋼では、炭素をできるだけ低減させて炭化物を無くし、粒径数nm程度と極めて微細で高温安定なバナジウム窒化物を分散させています(図1)。このように、ナノサイズで組織制御を行うことにより高温長時間まで強度を維持することができました(図2)。
 この耐熱鋼は高価な添加元素や特殊な製造設備を必要としないため実用化において有利であると考えられます。
 今後は産業界と連携して溶接性や耐酸化性など大型構造体化に向けた各種材料特性の調査を進めることで、早期の実用化を目指す予定です。

本研究成果は、英国科学誌「ネイチャー」(Vol.424, No.6946, 7月17日付発行)で掲載されたほか、朝日新聞、産経新聞、日刊工業新聞、日本工業新聞、日経産業新聞、化学工業日報、鉄鋼新聞、科学新聞、茨城新聞、電気新聞の国内各紙にも紹介されました。

図1 列状に並んで析出したバナジウム窒化物

図2 開発鋼(ナノ窒化物強化鋼)と
従来鋼(P92)とのクリープ強度比較


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