先端有機材料研究

近赤外線吸収
フタロシアニン系色素

材料研究所
基礎物性グループ
砂金 宏明


 フタロシアニン(以下Pcと略)は、IT・医療・エネルギー・環境等幅広い分野で実用化・応用研究がなされており(図1)、機能性有機材料に課せられる要求の多くに対応しているため、最も将来性のある化合物と言えます。
 Pcのこの幅広い機能性に着目し、これまで誰も合成に成功しなかったSb及びBiの錯体を合成することに世界で初めて成功し、その物性を明らかにしてきました。特にSbの錯体は、従来のPc色素の常識を覆す特異な性質を示します。一例として三価(図2A)及び五価Sb(図2B)のPc錯体の光吸収スペクトルを図3に示しますが、一般に可視(赤)光を吸収する既知のPc色素(C)と異なり、その吸収極大波長は近赤外領域に達します。これらの色素は、プラズマディスプレーやCCD用赤外線カットフィルターとしての用途のほか、その吸収帯を半導体レーザーの出力波長(780, 830, 870nm)に近づけることにより、光ディスク、光癌治療、電子写真、電子印刷、紙幣偽造防止用色素等への応用が期待されます。
 現在、図2のXやRの種類をいろいろ変えることにより、吸収波長の調整と溶解性・安定性の向上を目指しています。また、色素Aについては会合現象を利用した吸収帯の長波長化と強度の増幅も検討しており、非線型光学材料への応用も期待されます。
 さらに、単に合成するだけではなく、大学等と協力して近赤外領域に吸収を持つメカニズムを理論的に明らかにし、新たな合成戦略を築き上げることを目指しています。


図1 Pcの機能と応用
図2 当該研究で新たに合成された近赤外色素A;三価SbおよびB;五価SbのPc錯体
図3 当該研究で開発された近赤外色素の光吸収スペクトル.A:三価Sb錯体、B:五価Sb錯体、C:既知のPc色素

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