先端有機材料研究

有機材料の新規相転移現象の研究
−磁場で絶縁体が超伝導体に−

ナノマテリアル研究所
ナノ量子輸送グループ
宇治 進也


 最近の有機合成技術の発展により、通常の金属・合金並みの高い電気伝導性を有し、さまざまな構造や組成を持つ有機物(有機伝導体)が合成されてきています。有機伝導体には通常の金属・合金では見られない興味ある電気的、磁気的性質を示すものが多く、その性質を利用した新規材料としての実用化への道が模索されています。これらの性質は有機伝導体の特異な電子状態に起因するものと考えられており、そのメカニズムの解明が期待されています。
 私達のグループでは、結晶中に大きな磁気モーメントをもつ有機伝導体に注目し、その電気的、磁気的性質を調べてきました。一般的に電気抵抗がゼロ状態である「超伝導状態」は、磁場を印加することでエネルギー的に不安定になり、通常の「金属状態」(電気抵抗が有限な状態)に戻ってしまいます。ところが特殊な有機伝導体において、通常では考えられない現象、「磁場によって絶縁体から超伝導体へと転移する現象」が起こることを発見しました。
 この特異な現象は、図の挿入図に示すλ-(BETS)2FexGa1-xCl4という有機物でx=0.45の組成で出現します。この有機物は、2次元BETS(ビスエチレンジチオテトラセレナフルバレン)有機分子配列とFeCl4分子配列が交互に積み重なった層状構造を持っています。伝導電子はBETS分子層にあり、この面内で電気が非常に流れやすく、この面に垂直な方向では電気は流れにくい構造となっています。
 図に示すように、1.6Kという低温では、4T以下の低磁場中では抵抗は非常に大きく、絶縁体状態ですが、約4Tの磁場で抵抗が急激にゼロまで減少するという現象が発見されました。これが磁場によって誘起される「絶縁体―超伝導転移」です。さらに高磁場では、超伝導状態は破壊されて、通常の金属状態へと転移します。温度を上げると、超伝導が出現する磁場範囲が狭くなり、5Kでは超伝導は完全に消えてしまいます。
 このような磁場誘起絶縁体―超伝導転移は、この有機物で初めて観測されたものであり、現在その詳細なメカニズムの理解が進みつつあります。このメカニズムを利用して、非常に強い磁場中でも超伝導状態が安定に存在するような材料の開発や、外部磁場によって精密に制御できるデバイスの新規動作原理への提案ができると考えています。

図 有機伝導体λ-(BETS)2FexGa1-xCl4(x=0.45)の抵抗の磁場依存性
挿入図:λ-(BETS)2FeCl4の結晶構造の模式図


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