先端有機材料研究

単一電子トンネリングの
光制御分子素子

ナノマテリアル研究所
ナノマテリアル立体配置グループ
若山 裕


 単一電子トンネリングは、これまでも省電力トランジスタやメモリ素子などへの応用が提案されてきました。しかし、実用的な素子開発のためにはナノスケールでの素子構造を正確に、かつ再現性よく作製することに課題が残されています。その点有機分子は、サイズが微小であること、構造が均一であること、合成技術によって構造設計できることなどナノマテリアルとしていくつかの利点を持っています。そこで私達は分子を単一電子トンネリングの中間電極に用いた素子開発に取り組みました。
 試料はSi(100)基板上にSiO2/有機分子/SiO2/Au電極を順次積層させています。つまりMOS(metal-oxide-semiconductor)構造の中に分子を埋め込んだ構造になっています。ここではポルフィリン誘導体分子を用いました(図1挿入図)。これは、中心骨格の周辺に嵩高い置換基を取り付けることにより分子の孤立化を図っています。この試料の電流-電圧特性を極低温(5K)で測定したところ、階段状のI-V曲線が得られました。つまり、ポルフィリン分子が中間電極として機能し、そこへ単一電子がトンネリングしていることがわかりました(図1黒線)。この素子構成は単一電子メモリと同等であり、単一の分子がメモリ素子として活用できることを示しています。
 有機分子のもう一つの利点として、高い光応答性をあげることができます。そこで光照射下で同様の測定を試みたところ、I-V特性が大きく変化することが見出されました(図1青線)。また、この変化は可逆的なものであり、光照射を止めると直ちに元の特性に戻ります。つまり、単一電子トンネリングの光スイッチングが可能となったわけです(図2)。この現象は分子の励起−緩和過程が関与しているものと考えられます。
 この結果は光によってひとつの分子にひとつの電子を出入力制御できることを示しています。このような有機分子の特長を活かして、単一電子素子にスイッチングやメモリ、さらには発光などの光機能を取り込んだ新しい素子応用へと発展が期待できます。なお、本テーマは(独)通信総合研究所との共同研究として実施したものです。

図1 有機分子を用いた単一電子トンネリング現象とその光制御

図2 単一電子トンネリングの光スイッチング


トップページへ