ナノ構造解析技術の進歩

生体を模倣して設計した特定の
波長の光を反射する材料
− 材料の構造色変化を利用した
化学センサーへの応用 −

材料研究所
機能融合材料グループ
不動寺 浩

 

ワシントン大学化学科
アソシエート教授
Younan Xia


 自然界には構造色と呼ばれる色素や発光によらない発色現象が知られています。光の波長程度における屈折率の周期構造により生じるブラッグ反射はその典型例であり、玉虫の甲殻やモルフォ蝶の羽、孔雀の羽、オパールなどで見られます。熱帯魚のルリスズメダイもその一例で、その表皮のコバルトブルーが美しいことで知られています。この熱帯魚の表皮は周囲の環境によって変化します。図1Aのように、低屈折率の細胞質内に高屈折率のナノサイズの反射小板が規則配列しています。その間隔が拡大・収縮することにより構造色が瞬時に変化します。
 私達は、生体を模倣した構造色が変化する新材料を創製しました(図1B)。これは、コロイド粒子が最密充填した隙間にシリコンジェルが充填された、高い周期構造をもつコンポジットです。この材料は、特定の波長の光をブラッグ反射するため、構造色が観察されます。この構造色は配列面の間隔により変化させることができます(表紙写真下)。シリコンジェルは溶媒によって湿潤し、その体積が膨張します。その結果、配列面の間隔が拡大し、構造色の波長が長波長側に移動します。溶媒が蒸発すると、シリコンジェルは収縮し、構造色も最初の色に戻ります。
 図2Aの試料は、直径が202nmのポリスチレン粒子から構成されるコンポジットで、シリコンウエハー上に約50μmの薄膜として形成されています。大気中では、薄膜の構造色は緑色を呈しています。この薄膜をビーカー内の揮発性のシリコンオイルに浸すと、薄膜の構造色は赤色に変化しました。引き上げて溶媒を蒸発させると、薄膜の構造色は元の緑色に戻りました。
 この構造色変化を反射スペクトルにより測定し、その結果を図2Bに示しました。ブラッグ反射する光の波長は湿潤前が550nmで、湿潤後が658nmでした。図2Cは直径が175nmのポリスチレン粒子から構成される薄膜でその構造色は紫色でした。この薄膜を2種類のシリコンオイルの液滴で湿潤させると、その構造色は水色及び緑色にそれぞれ変色しました。
 このように、湿潤による構造色の変化は溶媒の種類によって異なります。この現象を利用すると、リトマス試験紙のような目視で判断できる簡易型の化学センサーとしてその応用が期待されます。
本研究成果の一部をAdvanced Materials及びLangmuir両誌に発表しました。また、Adv. Mater.誌の表紙カバー(Vol.15, No.11)を飾るとともに、Elsevier発行のMaterials Today(2003,Dec.)でもその研究成果がニュース記事として取り上げられました。

図1 A:ルリスズメダイの構造色変化のモデル(東邦大学藤井良三博士の運動性虹色素胞に関する解説論文を元に作成した模式図)B:構造色が変化する材料とその原理を示した模式図(膨張によって粒子間隔がd1からd2へと拡大している) 図2 A:材料の構造色は緑色を呈している.溶媒(シリコンオイル)に漬かっている部分は赤色に変化している.
B:それぞれの状態における反射スペクトルの比較
C:異なるシリコンオイルの液滴により、異なる構造色を呈した.元々の構造色は紫色、これが緑色と水色に変色した.

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