ナノ構造解析技術の進歩

アモルファス金属のナノ結晶化
− STEMによる超高分解能元素マッピング −

材料研究所
非周期系材料グループ

阿部 英司    蔡 安邦

 透過電子顕微鏡(TEM)は固体中の原子配列を直接観察できるため、局所的な欠陥構造など周期を持たない非周期構造領域の原子配列を知るための最有力手法です。近年、原子レベルのオーダー(〜0.1nm)まで細く絞り込んだ電子ビームを走査プローブとして用いる環状暗視野走査透過電子顕微鏡(ADF-STEM:本誌2003.4月号5ページ参照)が、従来の高分解能電子顕微鏡では得難かった局所構造情報を与える新たな手法として注目されています。
 急速凝固法により作製したアモルファス(原子がランダムに配列した状態)Al87Ni10Ce3合金に短時間の熱処理をして、数ナノメートル程度のAl結晶粒子を高密度に析出させるとその強度が飛躍的に向上することが報告されています。その強化メカニズムの解明には、ナノ粒子や添加元素の詳細分布を知ることが必要不可欠です。図左は、このナノ結晶試料から得た従来型の高分解能TEM像で、位相コントラスト像と呼ばれるものです。ナノ結晶粒子は、例えば図中黄丸で囲ったように周期的な結晶格子のコントラストを示す領域として同定できますが、一見してそれと見分けるのは困難です。
 ADF-STEMを用いて、各プローブ位置からの高角散乱電子の強度をマッピングしたものが、図中央の像です。高角散乱電子強度は、原子番号(Z)のほぼ2乗に比例するため、像コントラストはZの大きな重い原子の位置でより明るくなります。Zコントラストと呼ばれます。本合金はAl(Z=13)、Ni(Z=28)、Ce(Z=58)から構成されているので、最も軽い元素であるAlのナノ結晶粒子は像中の暗い領域として直ちに認識されます。さらに注目して頂きたい点は、アモルファス構造中に非常に明るい微小点(例えば図中矢印の位置)が観察されることです。Ceの原子番号が他より突出して大きいことから、これらは個々のCe原子を捉えていると考えられます。Zコントラスト像強度分布の予備的な統計処理により、強度の弱い部分(緑)と強い部分(赤)を示したものが図右です。Alナノ粒子やCe原子の分布を概ね浮かび上がらせることができました。

アモルファスAl87Ni10Ce3合金を、230℃で5分間熱処理した試料から得た高分解能透過電子顕微鏡像.
アモルファス母相中に、直径約数ナノメートル程度のAl結晶粒子が高密度に分散された微細構造となっている.


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