ナノ構造解析技術の進歩

SmCo磁石のナノ組織と保磁力

材料研究所
ナノ組織解析グループ
大久保 忠勝


 1970年代に開発されたSmCo磁石は、NdFeB磁石に比べて、高いキュリー温度と、残留磁化の温度依存性が少ないこと、耐食性が良いことなどから、最近、特に高温域で使用する各種センサ、モータなどを用途とした材料として注目されています。これまでに磁気特性に対する組成、熱処理の影響については多くの研究がなされていますが、熱処理最終段階での徐冷によって保磁力が向上する原因については明らかにされていませんでした。
 私達のグループは、原子の分布を直視できる3次元アトムプローブと、ナノ領域の構造観察・解析が可能な透過型電子顕微鏡を用いて、焼結Sm(Co0.72Fe0.20Cu0.055Zr0.025)7.5永久磁石の異なる冷却過程で得られた試料についてナノ組織を解析しました。
 その結果、図1に示すようにSmとCuが多く含まれるセル相(SmCo5相)において、徐冷の間にCu濃度が増加し、その濃度プロファイルはSmの分布よりも幅が広いことが明らかになりました。これは計算材料科学研究センターの小山らの計算結果からも支持されています。このような濃度分布の変化が徐冷過程での磁気特性向上の原因になっていると考えられます。
 図1で確認されるZrが偏析した板状の析出物(Z相)については、これまでいくつかの構造が提案されていましたが、アトムプローブによる組成解析、図2に示す高分解能電子顕微鏡像や、電子回折パターンの解析から、Be3Nb構造(a0.5nm, c2.4nm)を持ったZr(Co,Fe)3 であり、徐冷の間にSmがZrに置換されていくことが確認されました。
 このようなナノ組織解析によって得られた情報は、材料開発にフィードバックされ、機器の小型化、薄型化に貢献できると期待されます。



図2 Z相近傍の高分解能電子顕微鏡像とその構造モデル
図1 アトムプローブで得られたSm、Cu、Zrの3次元原子マップ(各点は検出された個々の原子位置を示しています)

 


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