ナノ構造形成・ナノ計測・ナノ機能制御の最前線

原子スイッチの開発
−原子移動を制御する新概念デバイス−

ナノマテリアル研究所

原子エレクトロニクスグループ

ナノ電気計測グループ

長谷川 剛

寺部 一弥

中山 知信


 現在の高度情報化社会を実現したシリコントランジスタも、その物理的・経済的動作限界が近いことが指摘されています。このため、新たなナノデバイスの開発が急務となっています。
 従来のデバイスが電子の移動を制御するものであったのに対し、私達は、原子の移動を制御する、全く新しい概念で動作するデバイスを開発しました。スイッチングに必要な原子の移動距離をわずか1nmとすることで、電子デバイスを凌駕する性能を実現可能としました。この原子スイッチの開発は、混合伝導体と呼ばれる材料を一方の電極に用いることで可能になりました。混合伝導体には、電界を印加すると電子に加えて、結晶を構成する金属イオンが結晶中を移動するという特徴があります。
 私達は、混合伝導体に局所的にトンネル電子を注入すると、金属イオンが還元されて表面に析出し、ナノスケールの突起が形成されることを見出しました。この突起が1nm離れた対向電極間に架橋を形成して、スイッチがオンとなるわけです。この架橋は逆極性の電圧を印加すると消滅し、スイッチがオフとなります。今回は、混合伝導体として硫化銀(Ag2S)を用いました。
 図1は、試作したスイッチによる1 MHzでのスイッチング動作結果です。電極間距離、すなわち、スイッチングに必要な原子の移動距離が1nmと極めて短いため、電子に比べて移動速度の遅い原子を移動させているにもかかわらず、将来的には10GHz程度の高速動作が期待されています。また、混合伝導体ワイヤと金属ワイヤの交点に簡単に原子スイッチを作製する方法の開発(図2)にも成功し、製造の低コスト化にも目途が立ちました。
 これらの特徴により、原子スイッチは、不揮発性メモリや演算回路、新しいコンピュータアーキテクチャーの実現などへの多種多様な応用が期待されています。例えば、開発したスイッチを用いて作製したAND、OR、NOTの基本論理ゲートも正しい動作が確認できました。この結果は、原子スイッチを用いるだけであらゆる論理回路を作製できることを意味しています。現在、実用化に向けて研究をさらに進めているところです。

図1 1 MHzでのスイッチング動作結果

図2 クロスバー構造による原子スイッチアレー.
各交点で、銀原子が析出し架橋を形成する


トップページへ