ナノ構造形成・ナノ計測・ナノ機能制御の最前線

ナノエレクトロニクスを支える新しい科学技術への挑戦

ナノマテリアル研究所長
青野 正和


 1949年の点接触型固体トランジスタの発明に始まる半導体エレクトロニクスの進歩は、半導体デバイスの微細化・高性能化に支えられてきました。しかし、この進歩も、近い将来物理的限界を迎えると言われています。そこで、ナノテクノロジーに支えられたエレクトロニクス(ナノエレクトロニクス)を確立して、従来型の半導体エレクトロニクスが直面する物理的限界を乗り越えようと、日本、米国、欧州など世界中で、ナノエレクトロニクスに関する研究開発が精力的に進められています(図参照)。
 ナノエレクトロニクスの発展の鍵を握る技術とは、何でしょうか?私達は、ナノ材料やナノ構造を作製する技術、それらの物理特性をナノスケールで計測する技術、ナノ構造の機能を制御する技術が重要だと考えています。
 まず、ナノ構造形成に関して、直径が数〜10 nm程度の導電性タングステン酸化物ナノロッドやジアセチレン化合物有機分子の局所連鎖重合反応を用いた導電性有機分子配線技術についての研究を紹介します。ナノワイヤやナノロッドは、ナノスケールデバイスにおける配線材料として、その性質を局所的に制御すれば機能素子として、また、ナノスケール構造の電気特性を探る際の極細触針やナノスケールピンセットとしてなど、様々に応用できます。
 ナノ計測では、様々なナノ構造の電気伝導特性を計測しうる多探針走査プローブ顕微鏡を紹介します。多探針走査プローブ顕微鏡は、単一のナノ構造上に複数の探針を設置した状態で、ナノ構造の物理特性、例えば電気抵抗を直接計測できます。この新しいナノ計測装置は、ナノ構造単体の特性解明やナノデバイスの駆動試験などへの応用を通じて、ナノエレクトロニクスにおいて重要な役割を果たすと期待されています。
 最後に、ナノ機能制御に関して、新しい動作原理によって駆動される「原子スイッチ」を紹介します。これは、金属電極とイオン電子混合導電体電極とを対向させ、両者の間に形成させた原子架橋を自在に制御する、全く新しいスイッチングデバイスで、原子架橋の形成と切断がスイッチのONとOFFに対応します。数々の優れた特徴を備えていることが明らかとなっており、次世代デバイスとして注目されています。
 ナノエレクトロニクスが、現在の半導体エレクトロニクスを実用レベルで超えるまでには、多くの課題が山積みされています。私達は、それらを一つ一つ解決し、高度情報化社会を支えるナノエレクトロニクスの実現を目指して、研究を進めています。

図 エレクトロニクスの歴史と展望


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