中期計画の中間点を迎えて

理事長
岸 輝雄


 物質・材料研究機構が発足して2年半が過ぎ、5年間の中期計画の中間点まで来ました。この中間点を迎えるにあたって、現状をふりかえりつつ今後のNIMSのあり方について考えてみました。
 NIMSのミッションは、「使われてこそ材料」をモットーに、基礎・基盤研究の推進、研究成果の普及、設備の共用、人材の育成を行うことにあります。具体的な研究内容は、ナノ物質・材料、環境・エネルギー材料、安全材料であり、加えて研究基盤・知的基盤の充実及び物質・材料ゆえの萌芽的研究を対象としています。また研究のアウトプットという点では、研究における土台となる論文と特許、土台の上の建物に相当する新物質創製、材料の実用化、研究機器開発、知的基盤等の両方を重視しています。使われる材料を目指して、常に土台を充実させ、目的を明確にした建物を作ることがNIMSの目指す方向です。
 また言い換えれば、研究開発型の独法は、中期計画で契約した研究内容を独創的、革新的に遂行することが使命であると言えます。この実行において研究システムの構築が重要になります。組織としての研究ユニット、研究実施集団よりなるプロジェクトを縦糸、横糸の関係で配置し、研究者は組織を横断して流動的に研究を行うシステムが必要です。この際重要なことは、強い研究者が集まってこそ組織として力を発揮できるという点です。すなわち、研究者個人の能力向上を意識した流動的で融合型の研究システム作りが肝要ということです。
 ここで同じ文部科学省に所属する大学との関係について考えてみます。大学は自ら研究資金を確保し、ボトムアップの研究を行います。また大学は基礎研究だけでなく応用・開発研究も行います。したがって、独法が大学で行わない研究を行うものとすると、何でも手を出す大学の残りの研究をやることになります。このような意味で、大学の存在を前提にした議論はほとんど意味をなさないと考えています。独法は中期計画として認められたトップダウンの研究を運営費交付金を用いて行う機関であり、そのためにプロジェクトを組み、多くの資金と研究者を結集します。NIMSは中期目標の範囲で先端的な物質・材料研究を行い、この分野を先導する研究機関であるべきです。
 このように基礎・基盤研究を行う中で、その成果を技術移転することも機構の目指す方向の一つです。情報の循環、研究の効率化、技術展開の立場から産学官連携は科学技術における国策の最上位の要請事項でもあります。従来以上に産業界との連携を深め、技術移転を推進していく予定です。
 しかしながら、NIMSは産業技術を目指す産業技術総合研究所とは異なり、技術移転に繋がらない萌芽的研究の成果も評価すべきと考えています。すなわち最終目標は家の建設にあっても土台だけで評価する基礎・基盤研究の部分があってしかるべきということです。
 さて7月に行われた文部科学省の独法部会評価において、NIMSはS、A、B、Fの評点のうちA相当の評価を得ました。これはNIMSの研究活動が十分に認められていることを示すものです。しかし、NIMSはこのA評価に満足することなく、S評価を得ることを目標としてさらに努力していきます。その施策の1つとして、中期計画の完遂と成果向上を目指し、現行プロジェクトの見直しと新規プロジェクトの立ち上げを行います。新しいプロジェクトは、できるだけ若い人を中心に、融合的な新分野を立ち上げ、次の時代に対応することを目指しています。
また運営方法等も見直し、過渡期の慌ただしさから落ち着いた研究環境作りに取り組みたいと考えています。独法は、大学及び民間の研究機関とは異なるプロ研究者の集団です。ミッション追求の中にも常に長期安定的な取り組み(Long-Term Stabilization)を行うことが重要と考えています。
 またNIMSは、この2年半の間にナノテクノロジー総合支援プロジェクトセンター、若手国際研究拠点(ICYS)、筑波大学物質・材料工学専攻の設置という3つの大きな取り組みを開始しています。産学官連携、真に国際的に開かれた研究所への脱皮、優秀な人材の育成・確保などの点でいずれもNIMSのアクティビティを高めるものであり、今後も積極的に推進していく予定です。
 国研から独法になったことで、裁量権は増しましたが、評価も厳しくなりました。費用対効果の観点から、基礎・基盤研究においてもより効率的に研究を進めることが要求されています。今後は、独法としての使命を改めてよく認識し、競争的資金への挑戦意欲に富んだスリムな体制を構築し、落ち着いた研究環境を作るということを目標としてNIMSの運営に取り組みたいと考えています。


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