多孔質触媒材料
―バイオインスパイアド技術の開発 ―

生体材料研究センター
組織再生材料グループ

生駒 俊之

 

田中 順三



 銀の多孔体は、触媒・電気化学・熱放出材料や生物フィルターとして使われています。多孔体は、多孔質のアルミナや軽石に金属イオンを沁みこませ、加熱しながら還元する方法で作られています。多孔体の表面積はふつうの金属粉末に比べ非常に大きく、例えば触媒作用が非常に効果的に働きます。
 今回、私達は、英国・ブリストル大学(スティーブン・マン教授、ドミニク・ウォルシュ博士)と協力して、表面積のきわめて大きい多孔体を作ることに成功しました。この方法は「バイオインスパイアド技術」と呼ばれます。高分子の物性をうまく利用しており、金・銀のような金属だけでなく酸化物や酸化物と金属の複合体(例えば銀/酸化銅、銀/酸化チタン)にも応用できるため、現在いろいろな分野で開発されています。
 高分子としてデキストランという多糖類を用いました。この物質は粘張性があり、安いというメリットがあります。このデキストランと金属塩を混ぜてよく撹拌してペーストにします。次に、それを500℃から900℃に加熱し、高分子を酸化して燃やして多孔体を作ります。下図及び表紙写真下が得られた多孔体です。
 孔は、デキストランが高温で熱分解して膨潤するときにできます。時には1〜20μmの孔が相互に連結した孔が観測されます。この構造は焼成温度によって変化します。
 今回開発したバイオインスパイアド法は、酸化物のナノ構造体の幅広い物質の合成に利用できます。従来のように孔を作る支持体としてアルミナや軽石を用いないため、価格が安く、製造工程のスケールアップと簡便性に優れています。
(この研究成果は、英国「Nature Materials 」の6 月号に掲載されたほか、日刊工業新聞、日本工業新聞、日経産業新聞、化学工業日報の各紙にも紹介されました。)

図 多孔体の構造.A :酸化銅を均一に分散させた銀の多孔体(焼成温度800 ℃).B :A と同じ場所の銅の分布(EDS 分析)を示す.C :800 ℃で焼成した酸化銅.D :600 ℃で焼成した酸化鉄(γFe2O3)

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