環境問題解決に挑む物質材料研究

超伝導マグネットで水を浄化する
― 環境ホルモンやヒ素を微量含む
大量の水の浄化 ―

強磁場研究センター
磁場利用グループ

 

筑波大学大学院
数理物質科学研究科

 

いわて産業
振興センター

小原 健司

 

三橋 和成

 

岡田 秀彦



 水中に含まれる微量の環境ホルモンを、大量・高速に浄化することができる、超伝導磁気分離技術を開発しました。磁性微粒子に環境ホルモンを吸着するための特殊なひげをつけ、これに環境ホルモンを絡ませてから、磁石の力でひきつけて回収するのです。これを磁気種付け法といいます。
 環境ホルモンとは、体内のホルモンの働きを乱す化学物質です。工業用洗剤原料のノニルフェノールや、プラスティック食器などに使われているビスフェノールA、あるいはダイオキシンなど約65種類がこれに相当するのではないかと疑われており、昨年、環境省がノニルフェノールを魚類に対する環境ホルモンと認定しました。人体に影響する恐れもあります。
 私達は、世界的問題になっているこの環境ホルモンを、超伝導マグネットを使った磁気分離という手法で効率よく吸着、分離する技術に取り組みました。図の実験装置を用いて、ビスフェノールAやノニルフェノール含有水を流速20L/分で超伝導マグネットの中を通過させ、1/10の濃度に浄化できること、および、磁気種付け物質を何度でも再利用できることを実証しました。
 ここで用いたBi2223マグネットは、金属系超伝導体のマグネットに比べて、はるかに高速で磁場を増減できるので、効率的な吸着・分離操作が可能です。
 私達はこのマグネットを岩手県の地熱発電所に持ち込み、地熱水有効利用のための浄化技術を研究中です。有害なヒ素を吸着する磁気種付け物質を開発し、環境省排出基準濃度以下の浄化に成功しました。地熱水を無害化して川へ放流できることを確認したのです。いままでできなかった地熱水の直接利用が可能になり、新しいエネルギー源としての可能性が膨らみました。
 磁気分離は使用済みフィルタが出ない、すなわち二次汚染物質を生じないという、環境に優しい特長を持っています。さらに、高温や低温、酸性、アルカリ性、放射能などの極限環境で使えることから、様々な応用が期待されます。

図 超伝導マグネットを用いた水浄化実験装置



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