環境問題解決に挑む物質材料研究

不純物を利用した回生原料の強化
― アップグレードリサイクル ―

エコマテリアル研究センター
環境循環材料グループ

大澤 嘉昭



 資源循環型社会の構築において、材料のリサイクル性の向上は重要な課題です。しかし、製品の高機能化に伴う材料の複合化や異種材料の組み合わせもリサイクルの段階で大きな問題となります。トランプエレメントと呼ばれる難除去性金属不純物が大量に混入したスクラップは、リサイクルできず埋め立て処分されています。特に近年、廃棄処分場の不足などから不純物含有スクラップの有効利用法の開発が切望されています。私達は、不純物を強化因子として積極的に活用する新しいプロセスの開発に取り組んでいます。鉄中に(1)銅、(2)アルミが混入した場合を想定し、粉末冶金技術および鋳造技術を応用したスクラップ利用プロセス開発を紹介します。
 廃棄自動車の鉄リサイクル工程では、破砕(シュレッダー)加工時に自動車に内蔵される小型モーターやハーネスなどから銅が混入します。鉄中の銅は通常の精錬では除去が難しいため、粉末冶金技術を応用して銅が微細に分散した組織を形成させる手法を検討しました。まず、NIMSで開発した高圧水アトマイズ法を用い、急速凝固によって銅が10ナノメートルオーダーで析出した組織を持つ鉄粉末を作製しました。次に、圧延強加工によって粉末の急速凝固組織を壊さないように低温(873K)で固化成形しました。これまでの研究で、銅ナノ分散組織によって強化された非常に高い強度(約900MPa)を持った材料が得られることを明らかにしています。
 また、金属材料において最も多く使用される鉄系合金とアルミニウム系合金が混合したスクラップも多く発生します。例えば、飲料用スチール缶の上蓋部分はアルミニウム合金であり、シュレッダーにかけたとしても蓋の部分の60%ほどは胴体に付随したままになります。鋳鉄は、特殊な場合を除き、比較的合金元素に対し許容量が多いことに注目し、鋳鉄の原料としてスチール缶が利用できないか検討しました。その結果、図に示すように、アルミニウム含有量10〜16%において炭化物が生成し耐摩耗性が大きく向上することを明らかにしました。また、表面のアルミナ化による耐高温酸化特性の向上、磁気ドメインによると考えられる制振性の向上などを確認しています。
 このように製造のプロセスを工夫することによって不純物を利用することが可能となり、今まで廃棄されていた材料をより高性能な材料に生まれ変わらせる「アップグレードリサイクル」を実現することができると考えています。

図 アルミニウムを含有させた鋳鉄の耐摩耗性


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