環境問題解決に挑む物質材料研究

光触媒による
有害化学物質無害化への取り組み

物質研究所
機能性ガラスグループ

井上 悟



 光触媒は光を補助にして化学物質を分解する作用のある物質です。最近では二酸化チタンという物質が紫外線の助けを借りて効果的に化学物質を分解することが発見され、環境ホルモン類の分解、大気汚染物質の浄化、ダイオキシン類の分解・除去などの様々な分野への応用が期待されています。NIMSでは、2000年より、有害な化学物質を光触媒の力を借りて分解・無害化するプロジェクトに取り組んでいます。
 研究している触媒は3種類あります。二酸化チタン、酸化亜鉛、ホ−ランダイト化合物(スズ酸化物基複合酸化物)の3種類です。
 二酸化チタン触媒では、ガラス板上に薄膜の多孔体を作製し、この細孔内壁に酸化チタンを固定することで、面積あたりの触媒量を増加させて高効率光触媒を開発しました。ガラス板上に薄く触媒層を形成しており透明で光が透過します。触媒層は薄いですが、小さな穴がたくさん開いた構造のため、表面積は大きく、また、透明であるため色々な方向からの光が利用でき、アセトアルデヒドの分解において市販の酸化チタン高効率P25触媒を遙かにしのぐ高速分解速度(13倍)が得られています(A図)。
 酸化亜鉛触媒では、紫外光だけでなく可視光も反応に利用する工夫をしています。亜鉛の化合物にタングステンと窒素の化合物を加えて加熱した基盤上にスプレ−して微粒子膜状に作製します(表紙写真上)。この窒素含有タングステン亜鉛酸化物系触媒は、青色LED光照射によるアセトアルデヒドの分解試験でP25触媒の2倍以上の分解速度を達成しています(B図)。
 ホ−ランダイト化合物では、高純度化による触媒性能の向上を進めました。ダイオキシン関連化合物の中でも毒性の強い仲間の一種(PCP)を用いた試験において、P25触媒では44%の分解しか達成できなかったのに対して、高純度ホ−ランダイトは同一時間内に94%の分解を達成しました(C図)。
 現在、それぞれの特長を活かした用途でこれら3種の新触媒を実用化するべく企業等との共同研究を進めています。


図 試作光触媒の有機物分解性能(有機物の分解で発生する炭酸ガス量を反応の目安としています)


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