強磁場技術が拓く新しい世界

磁気クロマトグラフィー
― 磁場による放射性廃棄物の分析 ―

強磁場研究センター
磁場利用グループ

 

筑波大学大学院
数理物質科学研究科

小原 健司

  

三橋 和成



 クギや砂鉄が磁石に吸い付くことは誰でも知っています。しかし、水溶液の中に漂う金属イオンを磁石は吸い付けることができるでしょうか? 私達は実験でそれが可能であることを示しました。
 この意味は重要です。磁気クロマトグラフィーという新しい分析の原理を実証できたことになるからです。簡単に消すことができる磁気力を分析に利用できれば、従来のように固体や液体との結合・化合を使う必要がなくなり、分析処理後に化学物質が生じません。この特徴は、二次廃棄物が深刻な問題となる放射性物質の分析において特に有利です。
 磁石としては図1の写真の超伝導マグネットを用いました。強力な磁気力(磁場勾配)を発生するため、磁石と磁石の間に金属製の磁気カラムを固定しました。磁場を印加しながら、このカラムに遷移金属イオンを含む水溶液を流し、イオンが流れる様子を検出器で観測しました。磁場の無い場合に比べて流出時間が長くなったイオンは、磁気カラム内に磁気力で引き留められたことになります。結果はそのとおりでした。(反磁性)ヨウ素イオンと4種類の(常磁性)遷移金属イオンを用い、濃度と磁場強度を変えると、それぞれの流出の様子が変わりました。
 図2はコバルトイオンCo2+の観測例です。縦軸はカラム通過後の水溶液中のイオン濃度で、横軸は時間です。磁気カラムに印加される磁場が強くなると通過に時間がかかっています。引き留める磁気力が強くなるからです。磁場が観測機器へ影響することによる観察結果の信頼性の問題は、磁気力への感受性が非常に弱いヨウ素イオンの実験によりチェックしました。この場合には、磁場強度の如何に関わらず図のような波形の違いは観測されませんでした。
 以上のことから、イオンを磁気力感受性の大小により識別できることを実証し、磁気力を基本原理とする磁気クロマトグラフィーの可能性を明らかにしました。これを発展させれば、クリーンな磁気力利用の分析装置の実現が期待できます。


実験条件
試料:3.8 mol/LのCoCl2水溶液、
導入量:20μL、移動相:水、
流量:0.3 mL/分、検出波長:516 nm

図1 金属イオンに磁気力が作用することを実証した装置

図2 磁気力の作用による金属イオンの流れの遅れ




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