強磁場技術が拓く新しい世界

強磁場と分子デバイス
― 自己形成ポルフィリンリングによる人工光捕集アンテナ ―

強磁場研究センター
磁場利用グループ
高澤 健



 光合成は植物やバクテリアが、太陽の光から生命活動に必要なエネルギーを作り出す過程です。最近の研究で、光合成の仕組みが次第に解明されてきました。例えば光合成バクテリアでは、ナノメートルサイズの小さなリングが、光を集める“アンテナ”の役割を担っています。
 このアンテナはリング状に規則正しく配列したポルフィリン分子によって構成されています。アンテナが光を受け取ると、光のエネルギーはリングに沿って高速で移動して、電気エネルギーを作り出す“発電所”に送られます。このアンテナは光を効率良く吸収し、エネルギーをほとんど損失せずに“発電所”に送ることができるため、光合成はどんな太陽電池よりも高い効率でエネルギーを生み出すことができるのです。
 私達は、自己形成という方法を利用すると、自然界の光捕集アンテナを人工的に合成できる可能性があることを見出しました。新たに合成したポルフィリン誘導体分子(hexakis porphyrinato benzen)溶液を基板上に滴下して溶媒を蒸発させると、リング状の分子会合体が自己形成されました。リングの大きさは基板の表面処理を変えることで、ナノからマイクロメートルまで自由に変化させることができます。
 図1はレーザーを用いて測定したリングの蛍光画像です。励起光の偏光方向により、リングの上下、左右の蛍光強度が変化しています。これは、リング内の分子が規則正しく配列していることを示しています(図2)。また、エネルギーがリングに沿って移動するためには、リング内の分子同士が相互作用していることが必要です。リングからの蛍光を分析したところ、分子同士の強い相互作用が確認され、このリングが光捕集アンテナの機能を持っている可能性が強く示唆されました。
 現在、リングに沿ったエネルギーの移動を極低温や強磁場中で詳しく調べています。私達は強磁場によってエネルギー移動を加速することができるのではないかと期待しています。そうすれば、アンテナとしての機能を飛躍的に高めることが可能になります。
(この研究はオランダ・ナイメーヘン大学物理学科、同化学科との共同研究により始まりました。)

図1 リングの蛍光画像 a)垂直 b)水平偏光励起

図2 リング内の分子配列の模式図




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