強磁場技術が拓く新しい世界

920 MHzNMRスペクトロメータ
― 理研と共同でタンパク質の
超高感度測定が実現 ―

理化学研究所
(NIMS客員研究員)

 

強磁場研究センター
磁場発生技術グループ

前田 秀明

 

木吉 司



 強磁場研究センターでは世界最高磁場で動作する920 MHz(21.6 T)NMRマグネットを開発し、理化学研究所と共同で、日本電子(株)の協力も得て、タンパク質構造解析用スペクトロメータとして整備を進めてきました。完成したNMR装置は、水素/炭素/窒素核のNMR信号を同時に計測する3重共鳴測定が可能です。
 この装置の測定例を図に示します。測定したタンパク質(DEF-C/ICAD)は、大きく傷を負った細胞が自殺するアポトーシス(細胞死)の最終段階でDNAの切断に関与する機能を持っています。NMR計測には窒素核編集NOESYという方法を用いています。NOESYは構造決定に最も重要な計測法で、2つの水素原子間の距離情報を与えます。500 MHz (11.75 T)と920 MHzの差は劇的であり、920 MHzでは500 MHzの3倍の個数のシグナルを得ることができます。この結果、構造解析時間の短縮や、構造解析精度の向上が期待できます。
 NMRの対象となるタンパク質は比較的小さな分子量(2万〜3万)のものに限られていましたが、昨年ノーベル化学賞を受賞したWuthrich博士らが、TROSYというパルスシーケンスを開発し、大きな分子量のタンパク質の測定が可能になりつつあります。TROSYは1 GHz(23.5 T)級の強磁場で最も有効なため、本NMR装置はTROSYに適しています。事実、DNA結合タンパク質などの大きなタンパク質複合体のTROSY測定を実施した結果、従来の装置に比べて遙かにシャープで強いシグナルを得ることができました。
 わが国では現在、3000種類の代表的なタンパク質基本構造の構造・機能解析を実施する「タンパク3000プロジェクト」が進んでおり、理化学研究所を中心にNMRなどを用いた解析を行っています。世界最高の感度と分解能を持つNMR装置の開発は、わが国のタンパク質構造・機能解析研究の進展に大きく貢献すると確信しています。

図 タンパク質のNOESYスペクトルの例




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