強磁場技術が拓く新しい世界

強磁場化による固体NMRの発展
― タンパク質から触媒、量子計算機へ ―

強磁場研究センター
磁場利用グループ
清水 禎



 超伝導材料の市場規模(1000億円)の約9割を占めるNMR(核磁気共鳴)磁石(MRIを含む)は、超伝導応用と磁場応用の中心的存在です。NMRは強磁場ほど精度が向上するので、強磁場化はNMRにとって普遍的な開発要素です(図参照)。1960年代に電磁石が超伝導磁石に置き換わることによって化学分析が可能になり、1980年代には10テスラ(T)級超伝導磁石(500 MHz)の出現によりタンパク質構造解析が可能になりました。そして2000年代の今、私達が開発した920 MHz(21.6 T)超伝導磁石によって無機固体材料のNMRという新しい分析分野が幕を開けようとしています。
 NMRは本来、周期表の9割以上の元素に対して分析可能であるにもかかわらず、従来の磁場では測定精度が低かったため、分析対象は水素など観測容易な主要4核種に限られていました。その結果、NMRは有機物に特化した分析機として普及してきました。しかし、20 T以上の磁場なら金属元素や酸素等でも精密測定が可能になるので、多くの実用上重要な固体材料のNMR分析が可能になります。
 顕微鏡や軌道放射光など他の微視的分析技術と比べたNMRの特徴は、局所的な原子配置や電子構造(化学結合の種類と大きさ、電子スピンの役割)などをピンポイントで解明できることです。私達はこの特徴を利用することにより、以下のようなことが可能になると期待しています。
(1)触媒と反応分子との間の化学結合の位置・種類・大きさを特定することによって、従来よりも高性能な触媒を開発するための設計指針を獲得。
(2)特定元素の配位状態や低対称な局所構造等を解明し、燃料電池や酸素分離膜等の固体電解質材料、および、超硬度材料や耐熱材料等の機能性無機材料の特性向上に反映。
(3)超伝導発現機構を解明し、新規超伝導体探索の指導的原理を確立。
(4)半導体等における超偏極(核磁化率およびNMR信号強度が最大で5桁向上する)現象を解明し、バイオや量子計算機等の先進分野へ応用。
 NMRの強磁場化は世界の潮流であり、先進国では30 T以上のNMR開発がすでに開始されています。さいわい、私達には40 T級のハイブリッド磁石があるので、企業や大学と協力し、これを用いたNMR測定を実現するための技術開発を早急に進めていきたいと考えています。

図 NMR磁石の進歩




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