プラズマ処理により
リチウムイオン電池の性能アップ

物質研究所
プラズマプロセスグループ
石垣 隆正

   

TDK(株)
開発研究所
丸山 哲



 携帯機器端末の電源として、高エネルギー密度(すなわち、小型・軽量)のリチウムイオン二次電池は広く利用されており、今後も飛躍的な需要の伸びが期待されています。炭素粉末は、このリチウムイオン二次電池の負極材として使用されていますが、さらなる高エネルギー密度化、異常時に想定される熱暴走の抑制には、イオンが流れる電解液と電極表面に形成される界面の安定性が重要であることがわかってきました。そのために炭素電極表面の改質を行う手法の開発が急務でした。
 大気圧付近で発生する高周波誘導プラズマは、一万℃以上の高温になります。また、アルゴン−水素、アルゴン−水素−二酸化炭素といった反応性の高いガスでプラズマ発生することもできます。このプラズマ中に人造黒鉛の1種であるメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)粉末を供給して処理しました。炭素粉末は、熱プラズマの高温領域を飛行する10〜20ミリ秒という短い時間でプラズマとの化学反応を起こします。これにより、もとの表面層が除去され、化学組成、構造が変化した新しい表面層が形成されました。プラズマ処理MCMB粉末をリチウムイオン二次電池の負極に応用して特性評価を行ったところ、リチウムが炭素電極に入ったり出たりする量(充放電容量)が10%近く増加しました。 
 さらに、プラズマ処理粉末を空気にふれないようにアルゴンガス雰囲気中で回収しました。図に示したのは、リチウムイオン二次電池の充放電効率の比較です。充放電効率は蓄えた電気をロスなく取り出せる指標ですが、プラズマ処理と大気未開放回収により、充放電効率が大幅にアップしたことがわかります。
 リチウムイオン二次電池は、携帯機器端末の電源とともに、自動車搭載電源、電力貯蔵用などの用途に使用することが見込まれており、今回示された新しい電極表面改質法は、リチウムイオン二次電池の利用拡大に大いに寄与することが期待されます。
 本研究は、科学技術振興調整費総合研究課題「協奏反応場の増幅制御を利用した新材料創製に関する研究」の一環として行われました。
(本研究成果は、日刊工業新聞、日本工業新聞、日経産業新聞、常陽新聞の各紙に紹介されました。)

図 プラズマ処理による充放電効率の変化




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