隕石の起原を探る衝撃実験
−宇宙塵の発生メカニズム−

物質研究所
超高圧グループ
関根 利守

   

神戸大学理学部
地球惑星科学科
留岡 和重



 隕石と宇宙塵は、太陽系の起源を解く鍵を秘めた宇宙から人類への贈り物です。隕石の落下は、時にはカタストロフィックな天変地異で、地球の生命体に危険をもたらす恐れもありますが、彗星と同様に人類に夢とロマンをもたらします。
 地球に落下する大部分の隕石と塵は、火星と木星の軌道間に存在する多数の小惑星群に由来します。塵(大きさ1mm以下)は、深海底、大気成層圏や極地での採取で、最近その特徴が明らかにされつつあります。その組成は通常の隕石(大きさ数cm以上)によく似ていますが、隕石と比べると、含水鉱物を含有する割合に大きな違いがあります。塵では含水タイプが圧倒的に多いのに、隕石ではわずか3%程度で極めて稀です。従来の説明では、含水隕石は多孔質でもろいため、大気突入時に微粒子(塵)に分裂し、流星となって燃え尽きてしまうため、その割合が少ないとされてきました。
 今回の実験では、2種類の隕石に衝撃波を与えて得られた試料を観察しました。使用した隕石は、オーストラリアに落下した含水のマーチソン隕石とメキシコに落下した無水のアレンデ隕石です。この両者で割れの特徴に顕著な違いが観測されました。マーチソンでは25GPaを超える圧力から、全体的に細かく割れて20-400μmの大きさの微粒子に分裂しましたが、アレンデでは37GPaを越えた圧力でも割れの密度は小さく、大きな割れが局所的にできるだけでした(図参照)。含水隕石のように水成分を多く含む試料では、衝撃圧縮後の断熱膨脹の際に、水蒸気が抜け出て爆発的な膨脹を起こしたため、細かい割れが高密度で発生したと思われます。
 このような隕石の衝撃実験から、地球に年間3万トンも降り注ぐ宇宙塵は、大気圏突入前に、小惑星同士の衝突によって既に塵になっているとする新しい考え方が提出されました。この考えに基づくと宇宙には含水隕石が従来考えられていた以上に普遍的に存在していることになります。本年5月に打ち上げられた小惑星探査機ミューゼスCが予定通り2007年6月に小惑星試料を持ち帰るのが大変楽しみです。
(本研究成果は、英国科学誌「ネイチャー」(Vol.423, No.6935, 5月1日付発行)で掲載されたほか、朝日新聞、神戸新聞、産経新聞、日本経済新聞、毎日新聞、読売新聞の国内各紙に紹介されました。)

図 衝撃実験後に回収された隕石の走査型電子顕微鏡像.(a) 30GPaの衝撃実験後に回収されたマーチソン隕石(含水)の断面図.(b)37GPaの衝撃実験後に回収されたアレンデ隕石(無水)の断面図.スケールは100μm.



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