超伝導材料研究の新展開

理想的な球状Nb超伝導体
−静電浮遊による球状単結晶の作成−

超伝導材料研究センター
薄膜・単結晶グループ

竹屋 浩幸   Yeon Soo SUNG


 いよいよ国際宇宙ステーション計画も進み、打ち上げ予定の日本の実験棟「きぼう」でも特殊環境における様々な材料の研究開発のための利用が計画されています。そこに搭載される加熱炉の一つとしてレーザー加熱式静電浮遊炉があります。これは無重力という特殊な環境における自由浮遊や無対流を利用して地上ではできない新しい材料を開発しようという目的の装置です。
 現在、私達は地上実験の段階ですが、同方式の炉を用いた浮遊凝固プロセスを利用した実験を行っています。方法は、図1に示すように試料に紫外線を当てて+に帯電させ、上部電極(−)と下部電極(+)の間に生じる静電力によって浮遊させます。この試料位置が常に中心に来るように電極間の電圧を変えて制御しつつ、レーザーを試料に当てて浮遊状態で溶かします。この方式では3000 ℃程度の温度まで急速に上げることができます。
 超伝導物質の代表であるNbを例にとって実験結果を紹介します。浮遊させて溶融させた状態からレーザー加熱を止めると試料は真空中で何にも接触していないので、放射冷却のみで温度が下がりますが、凝固点より約400 ℃も低い温度まで液体状態(過冷却状態)が維持され、その後発光(レカレッセンス)とともに凝固し始めるという従来とは異なるプロセスを経ます。
 こうしてできたNb球体(直径約3mm)は、球の表面全体に樹枝状の模様が現れるなど通常の凝固によるものとは異なる状態の物質ができます。X線や表面腐食法で調べてみると球全体が1つの単結晶となっていることがわかります(図2)。
 もともと超伝導状態では磁場を排除する性質がありますが、実際には欠陥、不純物や粒界などによってその性質が妨げられます。浮遊凝固法で作ったNbの球状単結晶は欠陥が非常に少なく、低磁場では100 %磁場を排除します。球体なので外部磁場の方向にも依りません。このような特徴を利用して磁場中においての標準参照試料として、物性測定装置などでは簡単に磁場較正を行うことができます。

図1 静電浮遊炉の仕組みと溶けた状態

図2 球状Nb単結晶と結晶方位




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