超伝導材料研究の新展開

急熱急冷法Nb3Ga線材
−新しい実用線材の出現−

超伝導材料研究センター
井上 廉



 組成比が3対1のNb3Ga 金属間化合物は、実用Nb3Sn超伝導線材(超伝導転移温度[Tc]=17.7K)を凌ぐ20K程度のTcを持ち超伝導が破れる磁界も高いため、実用的興味を引き、十数年にわたり熱心に研究が行われてきました。しかし、Nb3Ga合成には1800℃付近の高温環境が必要で、結晶粒が粗大化し、結晶粒界密度が小さくなります。そのため、大きな臨界電流密度(Jc)が得られず、高Tc酸化物超伝導体の発見以降、Nb3Ga開発研究は顧みられなくなりました。
 私達は、Nb3Al線材化のため、線材を直接通電で急加熱し、液体Ga中を通過して急冷する急熱急冷処理(RHQ[Rapidly-Heating & Quenching]処理)を考案しました。このRHQ処理は、2,000℃付近でミリ秒以下の超短時間高温熱処理が可能であり、細かい結晶粒のNb3Ga合成が可能ではないかと考え、Nb3Ga線材作成にRHQ処理適用を試みました。
 製造方法は、まず、Nb線にGaメッキを施し、熱処理することで、表面がNbGa3で覆われた複合線材を作製します。これを数百本Nb管に詰め込み、伸線加工して、Nb/NbGa3複合体線材を作り、RHQ処理を行います。RHQ処理によりTc=16Kの結晶構造の乱れたNb3Gaが生成しました。焼鈍を加えると、結晶秩序度は回復し、Tcは19.7Kまで向上しました。予想どおりNb3GaのJcは高く、図に示すように、実用Nb3Sn線材や、次世代実用超伝導線材の急熱急冷・変態法(RHQT[Rapidly-Heating, Quenching & Transformation]法)Nb3Al線材のJcに比べても遜色がないことがわかりました。特に、高磁場でのJcは極めて高く、実用的に興味深い結果が得られました。今後は、この線材を蛋白高次構造解析用核磁気共鳴装置や核融合炉などの応用に使うための実用線材化を目指して研究を進めていきます。

図 RHQ法により作製した典型的なNb3Ga線材におけるJcの磁場依存性.図中にRHQ処理時の通電エネルギ−密度及び焼鈍条件が示されている.比較のため、ブロンズ法によるTi添加Nb3Sn実用線材、及び次世代実用線材として期待されているRHQT法Nb3Al線材の特性を示した.



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