超伝導材料研究の新展開

コバルト酸化物系超伝導体
−異常な超伝導特性−

超伝導材料研究センター
新物質探索グループ
室町 英治



 私達は、物質研究所ソフト化学グループと共同で、超伝導を示すコバルト酸化物を初めて発見しました(本誌2003年6月号でも紹介)。この超伝導体(NaxCoO2・yH2O)は、CoO2層からなるナトリウムコバルト酸化物に水分子を導入した物質で、約5K(−268℃)で超伝導転移が確認されています。図1に示すような溶液を介した反応で超伝導体が合成できる点が非常にユニークですが、それ以上に、最近の研究から、この物質は、従来型とは大きく異なる超伝導特性を示すことがわかってきました。
 超伝導の特性として、超伝導転移温度(Tc)とともに臨界磁場(Hc)は大変重要です。コバルト酸化物は第2種超伝導体であり、臨界磁場として、上部臨界磁場(Hc2)と下部臨界磁場(Hc1)の二つが定義できます。磁場を上げていくと、Hc1で磁束が超伝導体内部に入り始め、Hc2に至るまで磁束と超伝導が共存する状態が続きます。しかし、Hc2以上の磁場では超伝導は完全に消失します。
 図2は、高磁場(40kOe=4T)の場合と低磁場(20Oe)の場合におけるコバルト酸化物の磁化の温度変化を示したものです。高磁場下でも、超伝導転移は磁化の減少として明瞭に観測され、磁場によるTcの低下が小さいことから、Hc2がかなり大きいことが予想できます。実際、より詳しい実験によれば、絶対零度におけるHc2は61Tという大きな値であり、逆にHc1は28 Oeと小さい値を示します。ここから、種々の超伝導に関するパラメーターを見積もることができますが、いずれも、従来型超伝導体としては考えられない数値となり、高温超伝導体に類似した性質を持つことが明らかになりつつあります。コバルト酸化物の異常な超伝導は、世界中の研究者の関心事となっており、今後の展開が大いに注目されるところです。
(この研究内容は、超伝導材料研究センター、物質研究所、大阪大学との共同研究により推進しています。)

図1 NaxCoO2・yH2Oの合成
(上:濾過処理、下:臭素処理)

図2 NaxCoO2・yH2Oの磁化の温度変化




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