超伝導を示すコバルト系
酸化物の合成に初めて成功

物質研究所
ソフト化学グループ
高田 和典



 超伝導は、物質を冷やしていくと電気抵抗がゼロになる現象で、20世紀はじめに水銀で発見されて以来、ほとんどの金属でこの現象が観測されました。1986年の銅系酸化物における超伝導の発見は、金属ではなく酸化物で超伝導が起こったこと、さらに金属に比べて高い温度で超伝導現象が起こったことから世界的に注目され、「超伝導フィーバー」と呼ばれる活況を呈するにいたりました。より高い温度で超伝導を得ようとする物質探索の中で、ニッケルやコバルトの酸化物が注目されました。これらの元素は周期律表で銅の近くにあり、性質も銅とよく似ているため、ニッケルやコバルトの酸化物でも同様に超伝導現象が起こるのではないかと考えられ、これまで数多くの研究が行われてきました。
 私達は、層状構造を持つナトリウムコバルト系酸化物を出発物質とし、その層間に存在するナトリウムイオンの部分的な脱離と、層間への水分子の挿入を組み合わせたソフト化学プロセスを用いることにより、CoO2層間距離が元の約2倍に広がったコバルト系酸化物の合成に成功しました(図1)。このコバルト系酸化物の帯磁率(図2)、電気抵抗率を測定したところ、約5K(−268℃)で超伝導相への明確な転移が観測され、コバルト系酸化物としては世界で初めて超伝導を示した物質であることがわかりました。
 超伝導フィーバーを引き起こした銅系高温超伝導体の特徴のひとつはその低次元性にあります。銅系酸化物においてはCuO2平面が超伝導の主役になります。今回発見したコバルト系酸化物もCoO2層間が広がり、二次元性が高まったことが超伝導発現の理由と考えられます。一方両者の異なる点は、銅系超伝導体では銅原子が正方格子を形成するのに対し、この物質ではコバルト原子が三角格子を形成している点です。このような高温超伝導体との類似点と相違点は高温超伝導体の超伝導機構の解明にも有用であると考えられます。また、銅系酸化物以外で超伝導が発見されたこと、合成に用いたソフト化学プロセスは多様な物質の合成に適した手法であることから、今回の発見はさらに新しい超伝導体の発見につながるものと期待されます。
(本研究成果は、朝日新聞、毎日新聞、産経新聞、日本工業新聞、化学工業日報、日経産業新聞、日刊工業新聞の各紙に紹介されました。)

図1 出発物質Na0.7CoO2(左)と
超伝導を示すNa0.35CoO2・1.3H2Oの結晶構造

図2 Na0.35CoO2・1.3H2Oの帯磁率(測定磁場20Oe、赤丸はゼロ磁場中冷却、緑丸は磁場中冷却の測定結果)
絶対温度5K以下で帯磁率は大きな負の値を示し、この物質が超伝導状態となっていることがわかります


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