ホウ素化合物における
高温強磁性現象の解明
物質研究所 ホウ化物グループ

森 孝雄

大谷 茂樹



 近年半導体において、通常の電荷だけでなく、スピン(磁化)も制御しようとする、いわゆるスピントロニクスの発展が期待されています。以前Nature誌等において、ホウ素半導体のCaB6に3価のLa(電荷)をドープすることで、全ての構成元素が非磁性であるにもかかわらず高温での強磁性が発現することが報告されて注目を集めてきました。私達は、この現象を説明する理論の整合性に疑問を感じ、仮説を立てて検証しました。
 図1のような良質なCa1-xLaxB6結晶を育成し磁化を調べた結果、図2の緑線のような磁化曲線が得られ、LaドープしたCaB6において以前の報告と同様な強磁性を観測しました。しかし、これらの結晶を軽く塩酸洗いすることで、Laはドープされたまま図の青線のように強磁性が全く消えてしまうことを発見しました。不純物の分析を行った結果、Laドープした試料は、塩酸洗い前にFeを0.010wt%程度含み、塩酸洗い後にそれが強磁性と共に0.001wt%未満に減少していることが明らかになりました。
 つまり、報告されていた現象は磁性不純物に起因していると示唆されることを見出しました。処理前のFe含有量0.010wt%は極めて微量ですが、強磁性発現には十分な量であったわけです。この現象は、結晶育成後のフラックス除去時に、電気分解的な反応によってFe不純物が凝集し結晶表面に‘メッキ’されるというメカニズムで説明できました。この発見は、何故ドープされた試料だけに強磁性が観測される傾向があるのかについて説明を与えます。つまり、ドープされて抵抗が低くなっている試料において不純物メッキ反応が進み、本質的ではない強磁性が観測されるわけです。
 一方で、CaB6のバンド構造との類似性からホウ素と炭素の混合面を持つCaB2C2も強磁性を示すことが予想され、Science誌で強磁性を示す実験結果が報告されました。この現象を調べるために、タンタル封入容器内での合成法を新たに開発し、Feを全く含まない純CaB2C2試料の合成に成功しました。そして純CaB2C2の磁性は、以前の報告と異なり通常の反磁性であることを明らかにしました。
 以上の研究から、ホウ素化合物の高温強磁性現象のなぞを解明するとともに、試料が含有する不純物を厳密に評価することの重要性を示すことができました。

図1 Ca1-xLaxB6結晶

図2 Ca1-xLaxB6結晶の磁化曲線




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