フラーレンでナノ繊維を作る
− フラーレンナノウィスカーとナノファイバー −

エコマテリアル研究センター
エコデバイスグループ
宮澤 薫一



 炭素原子(C)から成る閉じたかご状の形を持つ中空分子は,フラーレンと呼ばれます。フラーレンの代表は、60個のCから成るサッカーボール型の球状分子C60(直径約0.7nm, 1nmは10-9m)です(図1)。70個のCから成るC70のような、もっと大きなかご状炭素分子は高次フラーレンと呼ばれます。1985年にC60が発見されて以来、ダイヤモンドを凌ぐと期待されるC60分子の極めて硬い性質、超伝導発現、高い潤滑能、水素化物の形成、有機分子による多様な表面修飾と医薬品への応用探索、新規半導体など、C60は夢の新素材として広く研究が行われてきました。近年、私達は、強誘電セラミックスのチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)のコロイド溶液とC60とを混合して作った溶液中に、C60から成る結晶性繊維(直径数百nm以下、面心立方構造及び体心正方構造)を透過電子顕微鏡観察によって見出し、これをC60ナノウィスカーと名付けました。さらに、C60ナノウィスカーは、C60の有機溶液にアルコール類を添加して簡単に作製できることがわかりました。
 C60を飽和させたトルエンにほぼ等量のイソプロピルアルコールを静かに加えて、数日間以上、21℃位の涼しい環境に置きます。図2(a)はその例で、C60飽和トルエン溶液にイソプロピルアルコールを加えた直後の様子です。トルエンとイソプロピルアルコールの界面付近には、短いC60ナノウィスカーができています。図2(b)は約1週間経過後の様子で、ガラスビンの底に綿状に沈殿しています。図3は成長したC60ナノウィスカーで、繊維形状を持っており、C60ナノファイバーと呼ぶことができます。図4はC60ナノファイバーで作ったシートの写真です。同様にC70ナノファイバーも得られます。金属原子を内部に含むフラーレン(金属内包フラーレン)や有機分子が結合したフラーレンを用いても同様の繊維ができると考えられます。このような、ナノメートルサイズの直径を持つ極めて細いフラーレンの繊維を用いることにより、従来にない性能を発揮する様々な樹脂、半導体、医薬品ができると考えられ、やがては、環境負荷の小さい電池・高感度のセンサー・電子デバイスなどが多数誕生すると期待されます。

図1 C60分子の模型

図2 C60ナノウィスカー作製の様子

図3 C60ナノファイバーの走査型電子顕微鏡(SEM)写真

図4 C60ナノファイバーで作ったシート




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