外部炭素源不要のカーボンナノワイヤ創製
− 自己再生可能・電導性・耐酸化性 −

ナノマテリアル研究所
ナノデバイスグループ
藤田 大介



 カーボンナノワイヤの従来の主要な合成手法としては、アーク蒸発法・レーザー蒸発法・化学気相蒸着法などが挙げられます。これらの手法は外部炭素源から基板表面に炭素原子を供給することによりナノワイヤを合成するものです。外部から炭素を供給する成長方法では複雑な表面形状を有する材料を均一に被覆しにくく、また一度剥離すると修復することは容易ではありません。
今回、私達は新しい合成法を開発し、自己再生可能かつ電気伝導性と耐酸化性の機能を有する直径1nm〜100nm、長さ100nm〜数μmクラスのカーボンナノワイヤを創製することに世界で初めて成功しました。この方法は従来の手法と異なり外部炭素源を用いることなく、バルク内部に溶けこんだ炭素原子が高温で表面に析出する現象を応用しています。そのため、ナノワイヤの成長はマクロな表面形状に依存しません。また、表面から剥離した場合でも、真空中での熱処理を施すことにより、何度でも再析出・成長させることができます。実際、炭素原子を固溶させたニッケル単結晶(111)面を調製し、超高真空中で制御された熱処理を施すことにより固溶炭素を表面に析出させ、単結晶グラファイト基底面と共存するカーボンナノワイヤを創製できることを走査トンネル顕微鏡(STM)観察により明らかにしました(図)。図に示される表面は全て炭素原子で構成されています。このカーボンナノワイヤは電気伝導性があり、また大気に曝しても酸化せず非常に安定です。単一ナノワイヤの他にカーボンナノワイヤのバンドル構造が観察されました。
 炭素原子を固溶させた多結晶ニッケルにおいても同様のナノワイヤが観測されており、私達は様々な実用材料への応用を検討しています。たとえば、耐酸化性・自己再生機能を併せ持つ走査トンネル顕微鏡探針、酸化しにくい電池用電極材料、ガスを吸着しにくい自己再生型表面を有する超高真空材料などの応用展開を図っています。

(本研究成果はJpn. J. Appl. Phys. Part 1に掲載され、日刊工業新聞、日経産業新聞、工業材料など国内のメディアでも紹介されました。)
図 炭素を約0.3at.%固溶したNi(111)表面上に超高真空中熱処理により析出・成長したグラファイト基底面とカーボンナノワイヤのSTM像(a)及びSTM像中の白線部分の断面プロファイル(b)


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