電子線誘起蒸着によるナノ構造の作製の微細化に成功
− 世界最小の電子線によるナノ構造作製 −

ナノマテリアル研究所
ナノキャラクタリゼーショングループ

三石 和貴

下条 雅幸

古屋 一夫



 これまで、基板表面に有機金属ガスを流し、そこにイオンなどの粒子線や電子線を照射することで有機金属ガスを分解し金属を局所的に蒸着する手法は、主に加速電圧が30kVまでの走査型電子顕微鏡を用いて様々な金属に対して広く研究されてきました。しかし、それ以上の加速電圧を用いる場合、電子線を発生、加速する電子銃の高真空部分に基板付近に流したガスが影響を与えるという問題があったため、ほとんど行われてきませんでした。また、これまで有機金属ガスの分解は、入射電子によって材料中で励起される2次電子によって起こると考えられており、その分布は15nm程度以下にはならないと考えられてきました。
 今回、ごく微量のガスを試料近傍に導入できるようにガス導入系を改善した200kV電界放射型透過電子顕微鏡を用いることで、電子線の径を小さくし2次電子の広がりを押さえることにより、従来の限界を大きく下回る、より小さなナノ構造を得ることに成功しました。
 実施例を図に示します。シリコンの基板上に有機金属ガスの一つであるタングステンカルボニル(W(CO)6)を流し、200kVの電界放射型電子銃から得られた電子線を収束し、基板の任意の場所に照射しました(図a)。一箇所に電子線を照射している時間を変化させながら走査することで、様々なサイズのナノドットを位置制御しつつ蒸着することができます。図bは2次元のパターンを描画した例です。
 図cはカーボンメッシュ上に3次元的に作製されたナノ構造の例です。電子線を一筆書きに走査することで、空中に張り出た構造も任意に作製することができ、かつ、このときの線の太さは最小10nm以下です。
 今後これらの構造や物性と作製条件との関係を明らかにするとともに、ナノデバイスに向けた応用を研究していきます。
図 (a) 位置を制御しつつ作製したナノドットの例.(b)2次元および(c)3次元構造の作製例



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