新冷却技術
− セラミックス磁性蓄冷材料の実用化に成功 −

強磁場研究センター
磁場利用グループ
沼澤 健則



 私達の身の回りにある超伝導機器の代表例として、臨床画像診断に大きな威力を発揮する医療用磁気共鳴診断装置(MRI)があげられます。MRIには大きな磁場を発生可能な超伝導マグネットが多用されますが、4Kの極低温で冷却する必要があるため、高価で取り扱いの難しい液体ヘリウム冷媒を使用しなくてはなりませんでした。
 そこで冷媒を使用せずに超伝導マグネットの直接冷却が可能な4K気体冷凍機の開発が進められました。気体冷凍機には蓄冷器という、寒冷を一時的に蓄える装置が使われており、これによって大型の圧縮機を使用せずに極低温を発生できるのです。この蓄冷器の性能を決めるのは、その中に詰められている蓄冷材という大きな体積比熱をもつ物質です。
 従来、極低温発生部の蓄冷材料には鉛が使われていました。図1に示すように、鉛(Pb)の体積比熱は10K以下でほとんど無くなってしまうため、気体冷凍機による4Kの発生は困難でした。これを補うために開発されたのが、HoCu2などの希土類金属間化合物です。しかし4K以下になると比熱が減少してしまい、より高性能な冷凍機実
現の要求に対応できませんでした。
 私達は、4K冷凍機の性能を飛躍的に高める新世代蓄冷材料の開発に着手し、その実用化に成功しました。開発された蓄冷材料は、GdAlO3およびGd2O2Sという酸化物磁性体であり、図1に示すように4Kから5K領域で従来蓄冷材料の2倍以上の大きな体積比熱を実現するものです。
 単に大きな比熱を発生するだけならば多数の物質が利用可能です。しかし蓄冷材料としての諸条件(磁場中での比熱変化が少ない、加工性、強度・硬度、熱伝導率、化学的安定性、低コスト)を満足できる物質はごく僅かであり、従来は金属間化合物が使われていました。私達は酸化物磁性体の特性に着目し、これを多結晶体セラミックスとして製造することにより、4Kで優れた特性をもつ蓄冷材料を実現しました。
 図2には、表面研磨・粒状加工されたセラミックス磁性蓄冷材料Gd2O2Sを示します。新開発されたセラミックス磁性蓄冷材料は、日本をはじめ米国や欧州諸国で評価が行われ、4K冷凍能力が20%以上も向上する結果が得られています。すでに商用冷凍機を用いた半年以上の信頼性試験をクリアーしており、平成15年度より本格的な実用製品化が行われる見通しです。数年以内には、世界中のMRI装置に当機構で開発された磁性蓄冷材料が使われ、超伝導技術の普及を支えるものと期待されます。

図1 従来蓄冷材料と新開発セラミックス
磁性蓄冷材料との体積比熱の比較

図2 セラミックス磁性蓄冷材料Gd2O2S
(平均粒径400μm)






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