銅窒化ホウ素混合被覆法
− 容器内真空圧力の安定化 −

材料研究所 微小造形グループ

イリノイ大学 化学工学

大石 哲雄

土佐 正弘

小西 陽子



 真空容器の円筒内壁面に回転型蒸発電極を用いて銅と窒化ホウ素を混合した膜を被覆することにより、容器内の圧力の上昇を抑えて長時間安定に超高真空(10-5Pa以下)を維持することに成功しました。
 容器内の真空圧力は、容器内空間に放出される気体を真空排気装置で外部にどれだけ排出するかにより決まります。真空圧力を上昇させる主な要因としては、容器内壁面に吸着した気体分子と容器壁を拡散透過してくる水素の容器内空間への放出です。 気体の吸着量は表面積に比例するため、従来、鏡面研磨による超平滑化で容器内壁面の表面積を減らして気体吸着量を低減してきましたが、平滑化による表面積低減には限界があり、さらに、透過水素に対する抑止効果は小さいという問題点がありました。
 私達は、これまで気体吸着の少ない材料である六方晶窒化ホウ素(BN)を低温で被覆する技術を開発するとともに、BN被覆膜には水素透過を抑制する特性が有ることを見いだし、さらに、脆くてステンレス鋼製容器材料との密着性の悪いBNも銅と同時に共蒸着することにより摩擦にも耐えられる強固な被覆膜にする技術を開発してきました。また、銅は水素固溶量が小さく水素の拡散透過を押さえることも期待できます。そこで、この銅とBNの混合膜(Cu・BN)を真空容器内壁面に被覆するために、スパッタ蒸着電極が回転しながら前後に移動できるシステムを試作しました。
 図1は、試作したスパッタ蒸着装置の蒸着時の模式図です。この装置を用いて電極に取付けた材料で内径15cm、内筒長40cmの真空容器内壁を被覆することができます。Cu・BN膜(厚さは約0.1μm)を表紙写真上に示す容器のほぼ全壁面に均一に被覆するには約20時間かかりました。
 Cu・BNを内壁に被覆した容器内の真空圧力安定性を調べた結果を図2に示します。所定の真空に達した時点で排気系から遮断すると圧力が上昇していきます。Cu・BNを内壁に被覆した容器の圧力上昇は、未被覆容器と比較して非常に小さくなることがわかります。
 超高真空を安定化できる本手法は、表面分析機器や真空高電圧遮断機などの真空産業分野において長寿命化や省エネルギー化、小型化、および極高真空化(10-10Pa以下)に寄与するものと期待されます。

図1 試作装置(蒸着時)の模式図

図2 真空容器内の真空圧力上昇特性



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