コンビナトリアル手法を用いた3元系
ゲート酸化膜の探索

ナノマテリアル研究所
ナノマテリアル立体配置グループ

パール ハット アヘメト 知京 豊裕


 現在、電子デバイス開発は大きな変革点にさしかかっています。これまでのSiデバイスでは基本的な材料としてSi、Al、SiO2が使われてきましたが、高集積化と微細化が進む中、これまでの材料に代わる新材料が求められています。最大の課題はゲート絶縁膜です。これまではゲート材料としてSiO2が用いられてきましたが、厚さが1.5nmを下回るとその薄さのためにトンネル電流が増加し、リーク電流値が増大する問題が発生しています。SiO2より誘電率の高い材料が見つかれば、ゲート絶縁膜を薄くする必要がなくなり、リーク電流を減らすことができます。そのためにSiO2より誘電率が高い材料、いわゆるHigh-K材料が求められています。
 次世代のゲート酸化膜に求められている要件は、
1)熱的に安定な非晶質であること
2)高い誘電率を持つこと(比誘電率ε≧15)
3)Siと良好な界面を形成すること
4)還元雰囲気にも耐えられること
の4つです。しかし、これらの条件を満足する新しい酸化物材料を短時間で開発することは困難です。この問題を解決するために当グループでは、3つの材料の組成を連続に変化させ1枚の基板上に作製することができる「多元コンビナトリアル薄膜作製装置」を開発しました。
 図1に移動マスクと基板回転を用い多元系傾斜組成法(multi elements composition spread)によるコンビナトリアル材料合成法の概念図を示します。製膜方法はパルスレーザ堆積法(Pulsed Laser Deposition:PLD法)を用いました。3つのターゲットをレーザで打ち分け、図に示すように1原子層内で3つの材料の組成を連続的に変化させたものを作製することができます。この操作を繰り返すことで、ある温度での3元相図を1回の実験で作製することができます。また、この方式では3元領域の周辺に2元領域も同時に形成できるという特徴も持っています。基板回転、ターゲット交換、マスク移動など薄膜作製に必要な操作は全てコンピュータ制御で行います。
 現在、ゲート酸化膜用材料として注目されているのはHfO2やZrO2です。しかし、これらの材料はガラス化理論の観点からは中間酸化物とされ、単体では非晶質化することができません。非晶質とするためには網目状酸化物と修飾酸化物との混合が必要です。この観点から網目状酸化物としてAl2O3、SiO2を、修飾酸化物としてY2O3、Al2O3を選び、いくつかの組み合わせによる4元相図を作製しました。誘電率計測には電極をつけずに誘電率の評価ができるマイクロ波顕微鏡を、膜質の構造評価にはコンビナトリアルX線回折装置注)と透過型電子顕微鏡を用いました。試料作製には特定の領域から電子顕微鏡用試料を作製できる「マイクロサンプリング法」を適用しました。
 一連の試料の評価結果からHfO2-Y2O3-Al2O3系では比較的広い領域で誘電率が高いことがわかりました。また、この領域の中に非晶質の領域があることがコンビナトリアルX線の結果から示されました。この様子を図2に示します。その中のHfO2:Y2O3:Al2O3=6:1:3の領域から切り出した断面構造を図3に示します。Siとの界面で0.4nm程度のシリケート層があるもの、3元系混合領域が非晶質であることがわかります。また、この構造は700℃の後熱処理後も非晶質のままであり、熱的にも安定であることがわかりました。この結果はこれまでにない新しいゲート酸化膜の発見につながりました。
 今後のデバイス開発の課題は、機能性向上のための新規材料探索とナノレベルのプロセス技術の高速開発にあります。「スピード」と「革新性」が21世紀のデバイス開発に求められています。コンビナトリアル手法は、この時代のニーズにあった材料開発手法です。今後もゲート酸化膜だけでなく、Si上の機能性材料開発にこの手法を適用していきます。
注)物質研究所 渡辺 遵、藤本 憲次郎による。

図1 多元コンビナトリアル薄膜材料作製法の概念図
基板回転と移動マスクを使って3元コンビナトリアル合成を可能にしている




図2
上図:マイクロ波顕微鏡による誘電率分布
赤い領域は誘電率が高いことを示す
下図:コンビナトリアルX線回折による結晶性評価.色で示した領域は結晶化した領域であり、白い領域は非晶質であることを示す
図3
透過型電子顕微鏡による構造評価
図2の赤丸で示した領域において、非晶質であることが確認された


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