窒素吸収によるニッケルフリーステンレス
鋼製品の簡便な製造方法を開発

生体材料研究センター
機能再建材料グループ
黒田 大介

 

生体材料研究センター
機能再建材料グループ
塙 隆夫



 SUS304ステンレス鋼に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼は、力学的強度と耐食性に優れるため、工業材料、民生品、生体材料などに広く用いられています。しかし、隙間腐食や孔食が発生することがあるため、耐食性の改善が望まれています。そこで、フェライト系ステンレス鋼にニッケルの代わりに窒素を添加することで力学的強度と耐食性を飛躍的に向上させたオーステナイト系ニッケルフリーステンレス鋼(ニッケルフリーステンレス鋼)が、新しい材料として注目されています。
 現在、ニッケルフリーステンレス鋼は、溶解によって製造されたインゴットから製品形状に加工されていますが、高濃度の窒素を含むニッケルフリーステンレス鋼は、素材自体が非常に硬いため、薄板や線材を成形するためには特殊な設備が必要であり製造コストが高くなるため、実用的な複雑形状製品の製造方法はいまだ開発されていません。
 機能再建材料グループでは、窒素を含まない柔らかいフェライト系ステンレス鋼の状態で製品形状に成形し、その後窒素を吸収させることでオーステナイト系に変態させ、力学的強度と耐食性とを飛躍的に向上させることに成功しました。このニッケルフリーステンレス鋼製品の製造方法は、低コストで簡便な製造技術です。柔らかいステンレス鋼の状態では、直径350mmの細線を室温中で容易に成形することも可能です(図1)。このようにして作製した成形品を加熱した熱処理炉内で窒素ガスと接触させることで、1重量%程度の窒素を成形品に吸収させオーステナイト化することができます。オーステナイト化した成形品の力学的強度、破断伸び、耐食性は既存のステンレス鋼と比較して高い値を示すことが明らかとなりました(図2)。
 現在は、厚さあるいは直径が4mmまでの製品にしか適用できませんが、素材のミクロ組織の微細化が達成できれば、窒素の吸収量と吸収速度を増加させることができるため、さらに大型の製品(構造材料)への応用も期待できます。


図1 窒素吸収前に成形した細線

図2 窒素吸収前後の成形品と既存のステンレス鋼の
力学的強度と破断伸びの比較



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