イオンとレーザーで金属ナノ粒子を制御 − 超高速光スイッチングに向けて − |
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ナノマテリアル研究所 |
近年、情報通信システムは、急激に高速化・大容量化が進展し、マルチメディアの広帯域データサービスを主体とするネットワークに変わりつつあります。図1のように、既に光ファイバー網の基幹部分(大陸間、都市広域ネットワーク等)の整備は、かなり進んでいますが、LANやホームネットワークは遅れており、それらが整備されて初めて高度情報化社会が実現します。そのため、現在のスイッチング素子の情報処理速度数+GHz級を、1 THz(1012ヘルツ)級に、飛躍的に向上させることが望まれています。その超高速通信を実現するには、現在の電子素子では限界があり、基本デバイスを全光化することが必要になると見られています。 図2のように、現在主流の半導体電界トランジスターでは、固体中を電子が進む速度で制約を受け、周波数応答も数+GHz 級であるの対し、全光化された光スイッチング素子では、全て光速で伝搬し、また、周波数自体がはるかに高いことから情報密度が高く、もし高速の非線形光学材料が達成されれば、超高速通信が可能になります。私達はこのために、可視光域の応答に適合する10nm径程度の金属ナノ粒子を、誘電体媒質中に分散させた材料を創り、ナノ粒子の空間構造の制御により、光スイッチングのためのデバイス基礎構造の研究開発を進めています。 イオン注入法の優れた点は、高い空間制御性、及び材料中に溶けにくい任意の元素を打ち込めることであり、金属ナノ粒子の複合構造を作るには、非常に便利な方法です。私達は、金属イオンと基板種の種々の組み合わせで、表面プラズモン共鳴波長を調整することで、異なる波長の超高速光学応答を得てきました。 さらに、イオンとともにレーザーを併用することにより、誘電体基板材料中にナノメーターサイズの金属微粒子を制御して作り込む技術を開発しました(表紙写真上参照)。重イオン照射は3MeV Cu2+ 、レーザーはYAGレーザー2次高調波の532nm (パルス幅20nsec、繰り返し周波数10Hz) を用いました。 図3に、(a)イオン単独照射、(b)順次照射(最初にイオンを照射し、次にレーザーをイオン照射と同じ時間まで照射)、及び(c)同時照射を行った場合の石英ガラスの断面透過電子顕微鏡像を示します。イオン単独照射(a)では析出粒子は見られず、打ち込まれたCuは、ばらばらの原子として存在します。順次照射(b)では、浅い領域に少しCu粒子が見られます。これらに比べて同時照射(c)では、顕著なCu粒子の析出が起こっています。析出促進のために必要な光強度には閾値があり、また低線量の場合は、同時照射のときのみ析出が現れる場合もあり、多様な変化を示します。 このレーザー複合照射によるナノ粒子析出促進効果の原因は、イオン照射中に過渡的に禁制帯内に多く存在する電子状態、特に原子空孔などによる動的な電子エネルギー吸収によると考えられます。 同時照射のときに得られた直径10nm前後のナノ粒子は、可視域の表面プラズモン吸収を示し、超高速・非線形光学特性を示します。イオンとレーザーが、特定条件で複合照射される部分のみナノ粒子析出が起こるという事実は、図4に示すように、レーザー形状(例えば、細線描画)の制御によるナノ粒子制御の可能性を示唆しており、光スイッチング素子、光導波路、発光素子などの作製技術として期待され、さらに、低エネルギーイオンの深さ制御性と組み合わせれば、3次元的ナノ粒子制御へと発展する可能性もあり、夢は広がります。 (特許出願中:特願2002-251677) |
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図1 次世代の情報通信ネットワークに必要な超高速光スイッチング材料 |
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表面プラズモン 金属内の電子は外部電場(光)によって一斉に働き、中性状態を行き過ぎて、また戻るという振動を続けており、金属粒子の表面に局在化した振動モードが表面プラズモンです。 非線形光学特性 外部電場(光)による材料中の電荷の偏り(分極)は、通常外部電場に比例しますが、電場の2乗や3乗で増えるものが非線形光学特性と呼ばれ、種々の光機能素子に利用されます。 |
図2 半導体の電界型トランジスターによるスイッチング素子(上)、 |
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図3 3MeV Cu2+ イオンと532nmレーザー照射について、(a)イオンのみ照射、(b)順次照射、(c)同時照射を行った後の石英ガラスの断面透過電子顕微鏡像 | 図4 イオンとレーザーの同時照射によるナノ粒子析出促進効果を用いた空間制御法の模式図 |