窒化ガリウムと格子整合するホウ化ジルコニウム基板

物質研究所
ホウ化物グループ
大谷 茂樹



 窒化ガリウム(GaN)に代表されるV属窒化物半導体は、青色や紫外光の発光素子の材料として知られています。今後蛍光灯に代わる白色発光素子や低損失の電力制御素子などへの幅広い利用が期待されます。これらの実現には、基板上に良質な窒化物を形成し、素子の特性を向上させる必要があります。
 GaNは蒸気圧が高く大型結晶の育成が難しいので、基板として主にサファイヤ(Al2O3)を用いています。しかしながら、GaNとの間には格子定数で14%、膨張率で27%の大きな違いがあります(表1参照)。この違いにより、多くの欠陥(108〜1010/cm2の転位)がGaN中に形成します。そのため、この欠陥を低減させる新しい基板材料が求められていました。
 GaNは原子間距離が短い物質で、近い格子定数をもつ物質の数は限られます。また、単結晶育成が困難な物質もあります。このような状況で新しく見出したのがホウ化ジルコニウム(ZrB2)基板です。格子定数で0.6%、膨張率で5%の違いで、GaNとは良い一致を示します。熱伝導に関しても、金属Moとほぼ同じ高い値を示し、大出力素子の基板として熱の放散性に優れています。さらに、絶縁体であるサファイヤ基板にない特徴として、金属Cuを凌ぐ高い電気伝導性があります。そのため、基板に直接GaNを成長させることで、基板を電極として使用できます。その結果、図1に示すように、簡単な構造となり、製造プロセスが簡単になる大きな利点もあります。
 ZrB2単結晶は、融液からの成長が可能なため、毎時2cmの高速で効率的な育成ができます。しかしながら、融点が3200℃と高温なため、るつぼを用いない浮遊帯域溶融法(FZ法)が唯一の育成法です。この際大きな温度勾配(〜150℃/mm)の下での育成は避けられないので、欠陥の発生を防ぐため融帯組成を制御する特殊な浮遊帯域溶融法により、良質な単結晶を育成しました(図2)。この結晶より作製した基板上に転位密度が2桁低い格段に良質なGaN膜(107/cm2)の成長が確認されました。その後、ZrB2基板が大きな注目を集めています。
 この研究は、名城大学赤h研究室、京都大学松波研究室、京セラ(株)との共同研究により行いました。この基板へのGaNの成長については、応用物理3月号で紹介されます。

  ZrB2 GaN AI2O3
格子定数(a/nm) 0.317 0.319 0.275
熱膨張率(x10-6/K) 5.9 5.6 7.1
熱伝導率(W/mK) 99 130 47
電気抵抗(μΩ-cm) 4.6   >1016

表1 特性比較

図1 デバイス模式図
(a)Al2O3基板、(b)ZrB2基板


図2 As-grown ZrB2単結晶(直径1.5cm)



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