国産宇宙ロケットを支える材料強度データシート

宇宙関連材料強度データシートは
3機関連携・協力事業で高く評価

宇宙科学研究所
佐藤 英一



 宇宙開発は、原子力と並ぶ巨大科学技術の最たるものですが、宇宙開発事業団と宇宙科学研究所(ISAS)は1999年11月と2000年2月に連続してH-II ロケット8号機とM-Vロケット4号機の打ち上げに失敗し、技術の成熟性に疑問符が付けられてしまいました。
 重大事故の中には想定外の材料の破壊に起因するものがあり、この2機の打ち上げ失敗はまさにその典型でした。H-II ロケット8号機ではチタン合金製液体水素ターボポンプインデューサの極低温疲労破壊、M-Vロケット4号機ではグラファイト製ノズルスロートインサートの破壊・脱落がその根本原因とされています。このような材料にまで遡る原因究明と対策は大きな困難と時間を伴います。
 このような宇宙開発の重大局面に、日本の宇宙関連の3機関(宇宙科学研究所、宇宙開発事業団、航空宇宙技術研究所)が連携・協力して立ち向かうべきであることから、2001年度より信頼性向上共同研究プロジェクトが営まれています。このプロジェクトのなかでも、液体ロケットエンジン材料データベースの整備は、H-II ロケット8号機の打ち上げ失敗に直接繋がるものとして、緊急度、重要度ともに高いテーマとされています。これにより、これまでNASAのデータベースに頼っていた特殊条件の材料データを、物質・材料研究機構との連携でようやく自前で揃えることができるようになると期待されています。また、単なる材料データベースの整備に留まらず、き裂の鈍化がほとんど生じないという極低温疲労の特殊性に関する研究に進みつつあるとのことです。
 なお、この信頼性向上共同研究プロジェクトを母体として、日本金属学会でシンポジウム「宇宙用材料技術における信頼性向上への努力」(2002年3月および2003年3月(予定))が組まれています。
 この研究は、その成果がすぐに実際のロケットの設計・製造にフィードバックされつつあることも特色の一つです。この成果を取り入れ、すでにNASDAはH-II Aロケットの打ち上げを4機成功させており、喜ばしい限りです。
 一方我々ISASのリターンマッチは少々遅れておりますが、2003年5月にM-Vロケット5号機の打ち上げを計画しています。M-Vロケット5号機は小惑星のサンプルリターンを行う科学衛星(惑星)MUSES-Cを打ち上げることになっています。写真のように無事に打ち上げを行うべく、現在準備の最終段階に入っています。

写真 M-Vロケット1号機の打ち上げ(1997年2月)



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