国産宇宙ロケットを支える材料強度データシート

ロケット事故解析および不具合対策に役立つ破面情報
- 破面解析が原因究明の決め手 -

材料基盤情報ステーション
極低温材料グループ
住吉 英志



 機械や構造物の事故解析や開発時の不具合対策においては、破壊した面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、原因を明らかにすることと、強度データを用い、破壊させた応力等を見積もることの2つが行われます。そこで、宇宙関連材料強度データシートで使われた破壊靭性試験片や疲労試験片をSEMで観察し、破面情報を集めていくことは重要です。
 写真は極低温4Kにおけるチタン合金の疲労破面を示しています。疲労強度データは5頁図2にあります。(b)に示す内部破壊起点には結晶粒と対応した平坦な破面が形成されていました。このような破面は4Kでチタン合金が脆くなったために形成されたように見えます。同様な破面はニッケル基超合金(8頁図2参照)でも観察されました。しかし、き裂が進んだ領域では、(c)に示すように、疲労を特徴づけるストライエーションが形成されていました。さらに、(d)に示すように試験片が最終的に壊れる領域では、溝状模様が見られました。これらの特徴は、4Kの極低温においてもチタン合金は粘り強い特徴を発揮していることを示しています。
 このように破面には、それぞれの破壊に対応して特徴ある模様が残されています。H-II ロケット8号機のチタン合金製のFTPインデューサ破面にもストライエーションと溝状模様が見られ、インデューサが疲労破壊したことの有力な証拠となりました。今後の事故解析や不具合対策に役立たせるため、今まで存在していなかった極低温における破面情報を集めていきます。

(a)全体像

(b)内部破壊起点部(全体像の1)

(c)ストライエーション(疲労破壊を示す)
(全体像の2)

(d)溝状模様(延性破壊を示す)
(全体像の3)

写真 4Kにおけるチタン合金
(Ti-5Al-2.5Sn ELI)の疲労破面




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