国産宇宙ロケットを支える材料強度データシート

液体水素ターボポンプ用チタン合金の極低温強度特性
- 宇宙関連材料強度データシートNo.1 -

材料基盤情報ステーション
極低温材料グループ
小野 嘉則



 各種機械や構造物に用いられる材料では、使用時に繰り返しの応力を受けることにより、き裂が発生し、最終的には破壊に至ることがあります。このような現象を材料の「疲労」と呼びます。疲労は機械や構造物の事故原因の80%に関係することから、材料の疲労特性を把握することは、部品や部材の設計をする上で非常に重要になります。
 図1と図2には、宇宙関連材料強度データシートNo.1から抜粋した液体水素ターボポンプ用チタン合金(Ti-5Al-2.5Sn ELI)の室温から極低温にかけての破壊靭性と疲労特性を示しています。
 破壊靭性は、き裂が入った材料の壊れ難さの目安となります。図1に示すチタン合金の破壊靭性は、試験温度が室温(293K)、液体窒素温度(77K)、液体水素温度(20K)、液体ヘリウム温度(4K)と低くなるにつれて低下しています。4Kと20Kにおける破壊靭性値は、約60MPa√mとなっており、この値はNASAあるいは当機構が金属材料技術研究所当時に測定した値とほぼ一致しています。
 図2には疲労特性を示しており、NASAが報告している20Kでの特性や金属材料技術研究所当時に調査した4Kでの特性に比べると、FTP用チタン合金の疲労強度は低くなっています。また4K、20Kおよび77Kでは、材料内部から疲労破壊します(7頁破面写真(b)を参照)。データシートNo.1と関連した研究から、内部破壊の起点が大きいほど疲労強度は低下し、かつ起点部の大きさは結晶粒径に比例することが明らかになりました。参照材の特性は、薄板材や熱間圧延板のような結晶粒径が小さい素材を用いたのに対し、FTPインデューサ製作用の素材では、鍛造比が小さく、結晶粒径が大きかったために疲労強度が低下したと理解できます。このように同じ材料でも結晶粒径の大きさあるいは使用条件により、強度特性は異なる場合があります。
 宇宙関連材料強度データシートでは、使用条件に合わせた信頼性ある強度特性を求めて行きます。さらに、疲労強度低下のような弱点を克服する材料設計指針を見つけていきます。

図1 チタン合金の破壊靭性の温度変化

図2 チタン合金の各温度での疲労特性



トップページへ