国産宇宙ロケットを支える材料強度データシート

宇宙関連材料強度データシートの始まり
- H-II ロケット8号機の打ち上げ失敗の原因究明 -

材料基盤情報ステーション
松岡 三郎



 2000年1月17日に横須賀港を出航し、小笠原諸島西側の3000メートルの海底に沈んでいたH-II ロケット8号機のLE-7エンジン
(2頁写真1の上側)を引き上げ、27日深夜に帰港しました。これが宇宙関連材料強度データシートの始まりでした。
 1999年11月15日に8号機が打ち上げを失敗した直後から、テレメトリデータ等を用い、その原因が究明され、液体水素ターボポンプ(FTP)上流の閉塞、主噴射器水素ドーム内の閉塞、FTP下流配管の部分開口、FTP内部の異常発生の4つが浮上してきました。LE-7エンジンが回収されてからは、3と4番目に原因が絞られ、産学官の関係機関のもとで本格的な調査が進められました。当機構は破壊解析において中心的役割を果たし、Ti-5Al-2.5Sn ELIチタン合金、Alloy 718ニッケル基超合金など4種類の材料で作られている部品の12カ所の破断面を7台の走査型電子顕微鏡で観察したり、液体ヘリウム中の4Kの極低温度においてシャルピー試験を行ったりしました。その結果、LE-7エンジンが停止した原因はFTPのTi-5Al-2.5Sn ELI製インデューサ(2頁写真1の下側に示すようにFTPの入口で吸い込み加圧する役目を果たす羽根)裏面にあった長さ350μm、深さ15μmの加工痕から疲労破壊が起こり、インデューサ羽根の一部が脱落したためであると突き止めました。また、疲労破壊を引き起こした荷重はインデューサが液体水素中で高速回転することで発生する旋回キャビテーション等で発生することも明らかになりました。
 原因究明の過程で問題点が浮上してきました。国産のH-II ロケット並びにH-II Aロケットは国産材料を用いて作られています。しかし、国産ロケット材料の強度データはほとんど無く、設計には米国NASAのデータが使用されていました。また、今回のような事故解析あるいは開発段階における不具合究明に不可欠である材料組織情報や破面情報も整備されていませんでした。この原因の一つは、例えばエンジンでは先進的材料が液体水素温度20Kの極低温から600℃の高温で使用されるため、十分なデータを取ることが困難であったためです。当機構はこれらに関する試験技術の開発を進めていたことから、宇宙関連強度データシートを作ることに着手しました。

写真 インデューサの破面に残っていた金属疲労を特徴づけるストライエーション



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