国産宇宙ロケットを支える材料強度データシート

宇宙関連材料強度データシートの刊行

材料基盤情報ステーション
極低温材料グループ
緒形 俊夫



 当機構では、金属材料技術研究所当時からクリープデータシートと疲労データシートを出版してきました。これは産業界のニーズに基づく公的機関の仕事として、30年以上も続いています。この度、国産ロケットに用いられる材料の特性取得と信頼性向上を図り、宇宙関連材料強度データシートを発刊します。
 このデータシートのきっかけは、1999年11月のH-II 8号機の打ち上げ失敗の原因究明でした。1985年の日航ジャンボ機墜落,1995年の阪神大震災ともんじゅナトリウム漏洩を含め、事故調査の依頼を受けることは、公的機関としての当機構の任務であり、破面観察や応力解析を伴う事故調査の的確さは、当機構の実績を裏付けるものです。
 事故調査の議論の中での指摘の一つが、破損の大きかった液体水素燃料ターボポンプ(FTP)やエンジンに実際に使われている材料のチタン合金(Ti-5Al-2.5Sn ELI)やニッケル基超合金(Alloy 718)の強度特性のデータが整備されておらず、主にNASAや当機構が発表していた同じ合金成分の材料の特性を参照していたことでした。
 国産ロケットに用いられる材料の強度特性データを緊急に取得するにあたり、液体ヘリウム温度(4K)における長時間疲労試験機を用いて、極低温におけるチタン合金等のデータ評価に実績のある当機構にデータ整備が依頼されました。今後、宇宙関連材料の強度特性データの整備を進める中で、単にデータを取得してロケットの設計に用いられるだけでなく、得たデータをデータシートとして公表する方が多くの人に材料が認知され役立つとともに、材料自体の信頼性が向上することになる、という従来のデータシートの実績を踏まえて、データの整備とデータシートの準備が始まりました。
 データシートは、表に示すように、まずH-II AロケットのFTPおよびエンジン材料から始まり、今後、チタン合金、Alloy 718、銅合金、鉄基超合金等のデータシートの出版を予定しています。これらの試験は当機構と宇宙開発事業団,宇宙科学研究所,航空宇宙技術研究所の宇宙3機関における連携の下で、当機構を中心に実施しています。取得されたデータは、詳細に検討され、破面写真データとともにデータシートとして公開されていきます。今回はまず、No.1としてチタン合金の大型鍛造材、No.2としてAlloy 718の溶接材の強度特性を出版します。本特集では、これらのデータシートの概要とこれに伴う研究的トピックスを紹介します。

材 料

出版時期

Ti-5AI-2.5Sn ELI大型鍛造材

2003/2

Ti-5AI-2.5Sn ELI小型鍛造材

2004/1

Alloy 718 鍛造材&鋳造材

2005/3

Alloy 718 EB-溶接材、低サイクル疲労

2003/2

Alloy 718 EB-溶接材、高サイクル疲労

2004/3

(※ELI:Extra Low Interstitial
極めて不純元素の少ない合金)

表 データシートの出版計画



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